本HPは「統合医療」に関して、その概念および実際を紹介することを目的とするものであり、個別の疾患や診療内容の相談には応じかねます。また、内容に関しても、実際に個人の判断で適応した際のあらゆる責任は負いかねます。実際の診療に関する事項は、医師にご相談の上、施行されることをお勧めします。

2025年07月17日
ファシアを知ろう(6)あなたの体にも"ムシ"がいる? 甦る江戸時代の「ハラノムシ」伝説
「私たちの体の中には、目に見えない無数の“ムシ”が棲んでいる」。そう聞くと、少し不気味に感じるかもしれません。しかしこれは、江戸時代の日本でごく一般的に信じられていた「虫因論(ちゅういんろん)」という病気の考え方です。当時の人々は、腹痛や気分の浮き沈み、かんしゃくといった心身の不調の多くを、体内に棲む「ハラノムシ」の仕業だと考えていました。
このハラノムシは、単なる空想の産物ではありません。当時の医師たちは、オランダから伝わった顕微鏡を使い、実際に体液中にうごめく微小な存在を観察し、それを絵図として記録していたのです。
このどこかユーモラスで、しかし医学史の表舞台からは忘れ去られてしまった「ハラノムシ」の概念が、AWGオリジンという最新の波動治療器によって、現代に再び光が当てられようとしています。AWGで体に振動を与えた後、指先から採取した新鮮な血液を暗視野顕微鏡で観察すると、驚くべき光景が広がります。赤血球や白血球に混じって、糸状のもの、棒状のもの、アメーバ状のものなど、多種多様な「何か」が観察されるのです。
これらは従来、「ソマチッド」という不死の微小生命体が環境に応じて姿を変えたものだ、と説明されることがありました。
しかし、ここで視点を変え、これを江戸時代の人々が見た「ハラノムシ」の現代版、すなわち「ファシアデブリ」として捉え直してみることはできないでしょうか。
デブリとは「破片」や「ゴミ」を意味する言葉です。AWGの振動によって、血管壁や、血管の周りを覆うファシアに付着していた様々な夾雑物(プラーク、微生物の死骸、寄生虫など)が剥がれ落ち、血中に現れた。そう考える方が、ソマチッドという単一の存在で全てを説明しようとするよりも、はるかに自然で合理的ではないでしょうか。
AWGは、私たちの体内に眠る、未知なるミクロの世界への扉を開けてくれたのかもしれません。
この「ファシアデブリ仮説」を裏付ける、もう一つの重要な視点が「C+F仮説」です。これは、私たちが指先から採血して観察している「末梢血」が、純粋な血液(Capillary
blood)だけでなく、その周囲の組織液、すなわちファシア(Fascia)の成分を含んだ混合物である、という考え方です。
通常、私たちは指先から出た赤い液体を「血液」だと信じて疑いません。しかし、救急医療の現場では、指先で測った血糖値が、静脈から採血した血糖値よりも10mg/dLほど高くなることが知られています。この差は、採血の際に毛細血管だけでなく、その周囲のファシアに含まれる組織液が混入するために生じると考えられます。
つまり、私たちが顕微鏡で観察している世界は、血管の「中」だけでなく、血管の「外」であるファシアの世界をも映し出しているのです。
この視点に立つと、ファシアデブリの由来がより明確になります。寄生虫の中には、皮膚から侵入し、最終的に血管内に至るものがいますが、その過程で必ずファシアを通過します。また、外傷がないのに皮下組織で炎症が起こる「蜂窩織炎」も、ファシアが感染の温床となっていることを示唆しています。
ファシアは、免疫細胞が病原体と戦う最前線であり、その戦いの残骸(デブリ)が常に存在している場所なのです。AWGの振動は、このファシアという広大な戦場を揺り動かし、そこに潜んでいたデブリを血中に放出させる「お掃除」のような役割を果たしているのかもしれません。
剥がれ落ちたデブリは、マクロファージなどの免疫細胞によって処理されやすくなり、結果として慢性炎症の改善につながる可能性があります。
「ハラノムシ」が単なる過去の迷信ではない可能性は、最新の科学研究によっても示唆されています。近年、腸内細菌が私たちの気分や行動に影響を与えることが広く知られるようになりましたが、寄生生物の中には、宿主の脳を直接コントロールし、その行動を操るものが存在することが分かっています。
『心を操る寄生生物』(インターシフト)に記載される研究は、かつての虫因論が、あながち非科学的な妄想ではなかったことを証明しつつあります。戦国武将・丹羽長秀が「胸の虫」が原因で自害したという逸話も、単なる伝説として片付けられない、生物学的な背景があったのかもしれません。
顕微鏡下に現れるデブリの多様な形態は、江戸時代の絵師たちが描いたハラノムシの姿を彷彿とさせます。もちろん、当時の人々は想像力を働かせ、ムシに顔や手足を描き加えることもあったでしょう。しかし、その原型となる「何か」を、彼らは確かに見ていたのです。『針聞書』という古医書には、どのハラノムシにどの漢方薬が効くかまで詳細に記されており、彼らがハラノムシを極めて実体的な存在として捉えていたことがうかがえます。
AWGによって現代に甦ったハラノムシ、すなわちファシアデブリの探求は、私たちに生命の新たな側面を見せてくれます。私たちの体は、決して無菌のクリーンルームではなく、多種多様な微生物と共生し、せめぎ合う、ダイナミックな生態系(マイクロバイオーム)なのです。
この視点は、ソマチッドをめぐる長年の論争にも終止符を打つかもしれません。観察される微小な粒子は、単一の生命体ではなく、この豊かな生態系の一部であり、その活性度は生命エネルギーのバロメーターと言えるでしょう。
AWGは、ファシアというマトリックスを揺り動かし、そこに潜む「ハラノムシ」の存在を可視化することで、私たち自身の体が持つ、奥深い複雑さと豊かさを教えてくれるのです。
今週末の統合医療学会イベントの紹介
まずは土曜日、学会認定制度委員会による「基礎医学検定」と「統合医療カンファレンス」がオンライン開催されます。基礎医学検定はマルチプルチョイスで、医学の基礎知識を確認するためのものです。統合医療カンファレンスは、統合医療におけるカンファレンスの重要性と特殊性について考えてみたいと思います。
日曜日は、ファシア部会の第1回会議です。昨年末の宇都宮大会におけるファシアに関するシンポジウムをより掘り下げて議論したいと思います。
これらは全て統合医療学会会員を対象としており、詳細は学会HPをご覧ください。今回はすべてオンライン開催ですが、皆様のご意見を参考にしながら会場での公開会議も企画していきたいと思います。
2025年07月16日
生体城郭学のまなざし(100名城から医療を考える)3.松前城
3.松前城(北海道)
日本における、最後の和式城郭。その響きには、一つの時代の終わりと、伝統技術の集大成という、どこか誇らしげで、しかし物悲しいニュアンスが伴います。しかし、この松前城の実態は、その称号とは裏腹に、時代の変化に取り残されたシステムの悲哀を、私たちに突きつけてきます。
この城は、幕末、異国船の来航という新たな脅威に対応するため、海からの攻撃に備えるという、極めて限定的な目的で築かれました。
そのため、海に面した側は、何重もの砲台で固められ、厳重な防御態勢が敷かれています。しかし、その一方で、内陸側、つまり背後からの攻撃に対する備えは、驚くほど手薄でした。まるで、特定の症状や病気だけを診て、その人の生活全体や心の状態といった「背景」には全く目を向けない、極度に専門分化した現代の医療のようでもあります。高血圧の薬は出すけれど、その原因である食生活やストレスには無関心。これでは、根本的な病気の解決には至りません。
案の定、この城は、五稜郭から陸路で進軍してきた土方歳三率いる旧幕府軍に、いとも簡単に、わずか一日で攻め落とされてしまいます。「海からの攻撃」という、自らが設定したシナリオに固執するあまり、それ以外の可能性を全く想定していなかった。硬直化した思考が、組織を滅ぼした典型例です。
私たちの健康管理も、これと同じ過ちを犯しがちです。「がん検診さえ受けていれば安心」「このサプリを飲んでいるから大丈夫」といった、単一の健康法への過信は、かえって他のリスク要因への注意を疎かにさせ、全体の健康バランスを損なう危険性があります。
松前城の築城を指導したのは、長沼流兵学という、当時としては権威ある正統でした。しかし、二百数十年続いた太平の世を経て、その兵学は、実戦のリアリティから乖離し、形骸化してしまっていたのです。
どれだけ優れた理論体系も、現実の変化に対応できなければ、机上の空論に過ぎません。これは、医療の世界における「エビデンス」の扱いに通じる、重要な問いを投げかけます。科学的エビデンスは、もちろん重要です。しかし、それはあくまで、過去のデータに基づいた、平均的な人間に対する確率論です。
目の前にいる、唯一無二の個性を持った患者さんの、今この瞬間の現実に、そのエビデンスがそのまま当てはまるとは限りません。こうした視点は極めて大切です。
セルフケアとは、いわば自分自身の身体と心の「実戦」の指揮官になることです。教科書的な知識(健康情報)を鵜呑みにするのではなく、日々の体調の変化というリアルなフィードバックに耳を澄まし、自分だけの「兵法」を編み出していく。
松前城の悲劇は、私たちに、常に現実と対話し、学び続けることの重要性を教えてくれます。形骸化した権威に頼るのではなく、自らの身体感覚を信じる。それこそが、変化の時代を生き抜くための、真の強さなのではないでしょうか。
2025年07月15日
生体城郭学のまなざし(100名城から医療を考える) 2.五稜郭
星形の稜堡式城郭、五稜郭。その幾何学的な美しさは、訪れる者を魅了します。しかし、この城の物語は、西洋の合理性と日本の現実が衝突した、一つの壮大な心身症のケーススタディのようでもあります。私が最初に訪れた平成21年5月、現在みられる箱館奉行所はまだ復元されておらず、その美しい星形は、どこか魂の宿らない骨格標本のようにも見えました。
この城の設計思想は、当時のヨーロッパにおける最新の軍事理論でした。死角をなくし、効率的な十字砲火を可能にするための、極めて合理的なデザインです。これは、現代の西洋医学が依拠する、科学的合理性やエビデンスに基づいたアプローチとよく似ています。
理論的には完璧なはずの治療計画、ガイドラインに沿った標準治療。しかし、現実は、常に理論通りには進みません。五稜郭もまた、予算不足から、当初計画されていた5基の半月堡(防御施設)のうち1基しか造られませんでした。完璧な設計図も、現実の制約の前には、不完全なものとならざるを得ない。
これは、理想的な治療が、患者さんの経済状況や家庭環境、あるいは副作用によって、計画変更を余儀なくされる臨床現場の日常そのものです。
さらに致命的だったのは、この西洋生まれの城郭システムに、日本的な要素を無造作に「統合」してしまったことです。ヨーロッパの稜堡式城郭では、郭内に高い建物を建て、敵からの格好の標的になることを避けるのが鉄則です。しかし、ここでは日本の慣習に従い、中央に立派な箱館奉行所を建て、ご丁寧に屋根の上には太鼓櫓まで設置してしまいました。その結果、新政府軍の艦砲射撃の絶好の的となり、あっけなく機能不全に陥ります。
優れた理論やパーツも、全体のシステムとの調和を欠けば、かえって弱点となる。これは、統合医療における極めて重要な教訓です。
様々な代替療法を、ただ闇雲に取り入れるだけでは、かえって心身のバランスを崩しかねません。それぞれの療法が、その人全体のシステムの中で、どのように機能し、相互作用するのか。その全体性(ホリスティック)な視点なくして、真の統合はあり得ないのです。
私たちのセルフケアにおいても、この五稜郭の失敗は示唆に富んでいます。テレビや雑誌で紹介される最新の健康法(西洋の最新理論)に飛びつく前に、まずは自分自身の身体という「風土」をよく知る必要があります。
自分の体質、生活リズム、何を食べると調子が良くなり、何をすると崩れるのか。その日本的な、あるいは個人的な身体感覚を無視して、外から来た理論だけを振り回しても、健康という「城」は守れません。大切なのは、外からの知恵と、内なる声との対話です。その対話の中から、自分だけのオーダーメイドの健康法、真に統合されたライフスタイルが生まれてくるのです。
五稜郭タワーから見下ろす星形は、今も変わらず美しい。しかしその美しさの裏にある、不協和音の物語に耳を澄ます時、私たちは、より深く、成熟した健康観へと導かれるのかもしれません。
2025年07月14日
ファシアを知ろう(5)血流改善で腎機能アップ? AWGがもたらす腎臓への嬉しい効果
腎臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、機能がかなり低下するまで自覚症状が現れにくいことで知られています。しかし、その役割は生命維持に不可欠です。血液をろ過して老廃物や余分な水分を尿として排泄するだけでなく、血圧の調整、赤血球の産生促進、骨の健康維持など、多岐にわたる重要な働きを担っています。
これまで東洋医学では古くから生命力の根源(腎精)が宿る場所とされてきましたが、現代医学においても、腎機能が健康寿命を左右する重要な鍵であることが分かってきています。
この重要な腎臓の機能に対して、AWGオリジンが改善効果をもたらす可能性を示すデータが得られています。そのメカニズムの根底にあるのは、AWGの最も基本的な作用、すなわち「赤血球の連銭形成の解除」です。健康な赤血球は一つ一つが独立して、しなやかに形を変えながら毛細血管の隅々まで流れていきます。しかし、不健康な状態では赤血球同士がくっつき合い、数珠つなぎのようになってしまいます。この塊は細い血管を通りにくく、血流の悪化、いわゆる「瘀血(おけつ)」を引き起こします。
腎臓の働きの中核を担うのは「糸球体」と呼ばれる、毛細血管が毛玉のように丸まった組織です。血液はここでろ過され、きれいになります。この糸球体はまさに微小循環の最前線であり、赤血球の塊が最も詰まりやすい場所の一つです。
AWGの振動によって赤血球の連銭が解かれ、血液がサラサラになれば、糸球体での血流が改善し、ろ過機能が高まることは容易に想像できます。AWGは、体のミクロなレベルでの変化を通じて、腎臓というマクロな臓器の機能回復を促しているのです。
AWGが腎機能に与える影響を客観的に評価するため、血液検査による腎機能マーカーの経時的な変化を追跡調査しました。まず用いられたのが、腎機能の最も一般的な指標である「eGFR(推算糸球体ろ過量)」です。これは、血液中の老廃物の一種である「クレアチニン」の濃度と、年齢、性別から、腎臓が1分間にどれくらいの血液をろ過できるかを計算した値です。
実験では、被験者に日常的にAWGを使用してもらい、45日後、90日後にeGFRの値を測定しました。その結果、多くの症例でeGFRの数値が上昇、つまり腎機能が改善する傾向が見られました。これは非常に興味深い結果ですが、クレアチニンという指標には一つの弱点があります。それは、クレアチニンが筋肉で作られるため、その値が筋肉量に影響されてしまうことです。例えば、筋力トレーニングで筋肉が増えればクレアチニン値は上昇し、見かけ上、腎機能が悪化したように見えてしまう可能性があります。
そこで、この弱点を補うため、より正確な腎機能マーカーである「シスタチンC」を用いたeGFRの測定を追加で行いました。シスタチンCは、筋肉量の影響を受けずに、純粋な糸球体のろ過機能を反映する指標として、近年、糖尿病性腎症などの分野で重要視されています。
このシスタチンCを用いて再評価したところ、結果はさらに明確になりました。測定した全症例において、eGFRの改善が認められたのです。季節による水分摂取量の変化といった要因を考慮しても、この改善傾向は一貫していました。
測定を通して得られたこれらのデータは、AWGの使用が、見かけ上だけでなく、実質的に腎臓のろ過機能を向上させている可能性を強く示唆しています。
AWGによる腎機能改善のメカニズムは、単なる血流改善だけにとどまらない可能性があります。そこには、本書のテーマである「ファシア」が深く関わっているかもしれません。
近年の研究で、腎機能が悪化する過程において、腎臓内に「三次リンパ様組織」という異常な組織が形成されることが分かってきました。これは、慢性的な炎症によって免疫細胞が集まり、線維芽細胞が過剰にコラーゲンを産生することで組織が硬くなる「線維化」の一種です。この線維化が進行すると、糸球体は破壊され、腎機能は不可逆的に低下していきます。
ここで重要になるのが、AWGが持つ「ファシア環境を整える」という作用です。AWGの振動は、ファシアとその周囲の水分子の状態を正常化し、慢性炎症を抑制する可能性があります。また、ビタミンCの十分な供給と組み合わせることで、線維化の原因となる質の悪いコラーゲンではなく、しなやかで正常なコラーゲンが生成されるよう促すかもしれません。もし、AWGがこの「線維化」のプロセスに介入し、その進行を遅らせたり、あるいは一部を改善したりできるのであれば、それは腎臓病治療における画期的なアプローチとなり得ます。
赤血球の連銭解除による「物理的な血流改善」、副交感神経優位による「自律神経を介した血流改善」、そしてファシアへの働きかけによる「組織レベルでの環境改善」。これら複数のメカニズムが複合的に作用することで、AWGは私たちの生命維持の要である腎臓を守り、その機能を高めていると考えられます。これは、単なる対症療法ではなく、生命の根源的な部分に働きかける、統合医療ならではの深いアプローチと言えるでしょう。
2025年07月13日
カフェの課題図書は、帚木蓬生『ほんとうの会議』になりました!
ギャンブル依存症の治療に取り組む精神科医の先生による、会議の在り方の本、です。当然、オープンダイアローグは話題にされているのですが、それだけでなく、ギャンブル依存症における「ミーティング」という対話の在り方の紹介もされており、両者の比較分析がとても参考になりました。
また章の名前にもなっているのですが「答えは質問の不幸である」、という言葉は、この本の中で極めて印象的でした。
かつて結果が出ないカンファレンスとして、ジャングルカンファレンスを発表した当初は、学会においてエライ先生方にずいぶんと嫌味を言われたものですが、いまやその価値はこうした出版物になるまでに、一般化してきていると思うと隔世の感です。
生体城郭学のまなざし(100名城から医療を考える) 1.根室半島チャシ跡群
ここから皆様に、統合医療の眼差しからみた100名城の旅をお届けしたいと思います。日本列島という地形に、何らかの目的(多くは敵対勢力への戦略的なもの)を持って建てられた城をめぐる中で、日々、何らかの要因(病因)にさらされ続ける生体へのヒントを読みといてみたいと考えています。
そしてその旅の終わりに、城郭という我々人間が構築した作品から、我々自身の健康増進のヒントを探る「生体城郭学」とも言える思考の枠組みを構築したいと思うのです。
それでは北辺の地から、生体城郭学の構築の道のりを始めることにしましょう。
100名城を巡る旅、その始まりとして、あるいは終わりとして、多くの城好きの前に立ちはだかる「最果ての城」。それが、ここ根室半島チャシ跡群です。
私がこの地を訪れたのは、まだ夏の気配が残る平成21年8月のこと。日本の東端に近いこの場所は、単に物理的な距離が遠いだけでなく、私たちの日常的な時間感覚や価値観からも遠く隔たった、一種の聖域のような空気をまとっていました。
「チャシ」とはアイヌ語で「柵で囲われた場所」を意味し、砦や祭祀場、見張り場など、多様な機能を持っていたと考えられています。石垣や天守といった、私たちが「城」と聞いて思い浮かべる要素はここにはありません。あるのは、大地を削り、盛り、堀を巡らせた、極めて素朴で、しかし根源的な「場」の力です。
オンネモトチャシに代表されるこれらの遺跡群は、自然の地形を巧みに利用し、最小限の人間の作為によって、聖と俗、内と外を分かつ空間を創り出しています。それはまるで、文明がその華美な装飾をまとう以前の、生命が持つ原初の防御形態を見るかのようでした。
こうしたチャシのあり方は、統合医療が目指す健康観とも深く響き合うような気がします。現代医療は、最新の医薬品や高度な手術といった、いわば「壮麗な天守」を次々と築き上げてきました。それらは確かに強力で、多くの命を救ってきました。しかし、私たちはその輝かしい成果に目を奪われるあまり、自分自身の身体という大地に、もともと備わっている素朴で根源的な力、すなわち「自然治癒力」という「チャシ」の存在を忘れがちではないでしょうか。
病気という外敵に対し、最新兵器で立ち向かうだけでなく、まずは自らの陣地である身体の土台を整え、内なる防御力を高める。睡眠をとり、栄養バランスの取れた食事を摂り、適度に身体を動かす。こうした当たり前の生活習慣こそが、私たちの身体に築くべき最も重要な「チャシ」ではないかと思うのです。
この地へのアクセスの悪さは、ある種の象徴性を帯びているかのようです。来訪当時は資料館の休館でスタンプを押せず、途方に暮れる人も多かったと聞きました。
目的地を前にしながら、たどり着けないもどかしさ。これは、難治性の疾患を抱え、様々な治療法を試しながらも、なかなか快方に向かわない患者さんの心境と重なるかのようです。根本的な治癒への道は、決して平坦ではありません。しかし、その遠い道のりを歩むプロセスそのものが、私たちに何かを教え、何らかの変容を促すのかもしれません。
安易な解決策を求めるのではなく、自らの足で、生活という荒野を歩き、自分だけの「チャシ」を見つけ、築き上げていく。セルフケアとは、まさにそうした地道な旅のようにも思われました。
チャシは、和人との緊張関係の中で、16世紀から18世紀にかけて多く築かれたとされます。異なる文化との接触が、自己のアイデンティティを再認識させ、新たな創造のエネルギーを生む。これもまた真理です。西洋医学という強力な文化と出会ったからこそ、私たちは、伝統医療や自分たちが本来持つ生命の知恵の価値を、改めて問い直すことができるという面もあるはずです。
根室の茫漠とした風景の中に佇むチャシ跡は、私たちに問いかけます。あなたの内なる大地は、健やかか。あなた自身の生命を守る「チャシ」は、確かにそこにあるか、と。この根源的な問いから、私たちの健康をめぐる旅は始まるのです。
2025年07月10日
ファシアを知ろう(4)深いリラックスの科学〜AWGが自律神経を整え、トラウマケアにも繋がる可能性〜
現代社会を生きる私たちは、常にストレスに晒され、自律神経のバランスを崩しがちです。活動モードの「交感神経」が過剰に優位となり、休息モードの「副交感神経」の働きが低下することで、不眠、疲労、免疫力の低下など、心身に様々な不調が生じます。AWGオリジンは、こうした自律神経の乱れを整える上で、非常に興味深い効果を示すことが、近年の研究で明らかになってきました。これまでファシアや血流への効果が注目されてきましたが、自律神経という視点を加えることで、その治癒メカニズムがより多角的に理解できるようになります。
その効果を客観的に検証するため、指先の脈波を分析する「加速度脈波」と「心拍変動解析」という二つの生理学的な検査を行いました。まず、加速度脈波は血管のしなやかさ、つまり柔らかさを測る指標です。血管の硬さは主に交感神経によってコントロールされており、交感神経が緊張すると血管は収縮して硬くなります。
実験の結果、AWGの刺激後には、脈波の振れ幅が大きくなることが確認されました。これは血管壁がより柔軟に、しなやかに動いている証拠であり、AWGが交感神経の過剰な緊張を適度に抑制していることを示唆しています。
しかし、最も注目すべきは心拍変動解析の結果です。この解析では、心拍の微妙な「ゆらぎ」を周波数分析することで、交感神経と副交感神経の活動を別々に評価できます。興味深いことに、AWGの効果は刺激の強さによって異なることが判明しました。「自分で気持ちいいと感じる強さ」で自由に刺激した場合よりも、本人がほとんど感じないくらいの「弱刺激」で行った場合の方が、副交感神経の活動が有意に高まるという結果が出たのです。これは、強い刺激が必ずしも良いとは限らず、むしろ穏やかで繊細な刺激こそが、体を深いリラクゼーション状態に導く鍵であることを示しています。
AWGの弱刺激が副交感神経を優位にするという発見は、単に「リラックスできる」という以上の、深い意味を持っています。その鍵を握るのが、近年、心理学や神経科学の分野で大きな注目を集めている「ポリヴェーガル理論」です。この理論は、米国の神経科学者スティーブン・ポージェス博士によって提唱され、従来の自律神経の理解を大きく塗り替えるものです。
従来の理論では、自律神経は交感神経(アクセル)と副交感神経(ブレーキ)の二つのシステムがシーソーのようにバランスをとっている(二元論)と考えられてきました。しかしポリヴェーガル理論では、副交感神経(迷走神経)を、進化的により古い「背側迷走神経」と、より新しい「腹側迷走神経」の二つに分けて考えます。
腹側迷走神経は、横隔膜より上に分布し、心臓や肺、そして表情筋や声帯、聴覚とも連動する、人間を含む哺乳類特有の神経です。この神経が活性化すると、心拍は穏やかに安定し、私たちは「安全だ」と感じて、他者とのコミュニケーションを円滑に行うことができます。そのため「社会的神経系」とも呼ばれます。
心拍変動解析でAWGが活性化させていたのは、まさにこの腹側迷走神経の働きを示す指標でした。つまりAWGは、ただ体をリラックスさせるだけでなく、私たちが心から安心し、社会的なつながりを感じるための神経システムを活性化させている可能性があるのです。
このことは、うつや不安、引きこもりといった精神的な問題や、対人関係の悩みを抱える人々にとって、大きな希望の光となります。薬物療法やカウンセリングといった従来のアプローチに加え、AWGのような物理的な刺激によって「安全な状態」を体から作り出すという新しいケアの道が拓かれるのです。
ポリヴェーガル理論が特に重要視されるのが、「トラウマ」の領域です。トラウマを抱えた人々は、過去の危険な体験によって神経系が過敏になり、常に危険を察知する「闘争・逃走モード(交感神経優位)」や、絶望的な状況で心身の機能をシャットダウンさせる「凍りつき・不動化モード(背側迷走神経優位)」に陥りやすくなっています。この状態では、他者との安全なつながりを感じることができず、社会から孤立してしまいます。
トラウマからの回復には、この凍りついた神経系を安全に再起動させ、腹側迷走神経が司る「安心・安全・つながり」の感覚を取り戻すことが不可欠です。AWGオリジンには、精神的な不調に対応する「メランコリー」などのコードも存在しますが、その効果の背景には、この腹側迷走神経への働きかけがあるのかもしれません。
AWGの弱刺激がもたらす穏やかな振動は、過緊張状態にある体に「もう危険はない」という信号を送り、安全な状態へと優しく誘うことができます。これは、セラピストとの対話(オープンダイアログなど)と組み合わせることで、さらに大きな相乗効果を生む可能性があります。言葉によるアプローチと、体からのアプローチが両輪となって、回復を力強くサポートするのです。
これまで、「福田-安保理論」に代表される自律神経免疫療法では説明しきれなかった現象も、このポリヴェーガル理論の視点を取り入れることで、より鮮やかに理解できるようになります。生命は単純なシーソーゲームではなく、より複雑で階層的な調整システムによって成り立っています。
AWGがもたらす深いリラックスの科学は、ファシアや血流といった物理的な側面だけでなく、私たちの心や社会性といった、より高次の生命活動にまで影響を及ぼす、底知れぬ可能性を秘めているのです。
2025年07月07日
ファシアを知ろう(3)波動治療器AWG ORIGINRはなぜ効くのか? 「ファシア振動説」で謎を解く
AWGオリジンという治療機器をご存知でしょうか。微弱な電気信号を体に流すことで、様々な不調の改善を目指す、いわゆる「波動治療器」の一つです。物理学者の保江邦夫氏がその著書『量子医学の誕生』で紹介したことでも知られ、その作用機序はこれまで、量子もつれやエバネッセント光といった、最先端の物理学理論を用いて説明されてきました。しかし、これらの概念は非常に難解で、多くの人にとってはその効果を実感しつつも、「なぜ効くのか」という問いに対する明確な答えを得にくい状況が続いていました。
この長年の謎に、全く新しい光を当てるのが、本稿で提唱する「ファシア振動説」です。この説は、AWGの作用を、難解な量子の世界から、私たちの体内に実在する「ファシア」という組織への働きかけとして捉え直すものです。この視点に立つことで、AWGの効果をより具体的で、生理学的に理解可能なメカニズムとして説明することができるようになります。
この仮説の出発点となるのは、AWGを使用した後に見られる、非常に分かりやすい客観的な変化です。それは、暗視野顕微鏡で血液を観察した際に見られる「赤血球の連銭形成の解除」です。不健康な状態の血液では、赤血球が硬貨を積み重ねたように連なり(連銭形成)、血流を滞らせています。ところが、AWGで体に振動を与えた後には、この連なりが解け、赤血球が一つ一つサラサラと流れるようになるのです。この現象は、刺絡など他の治療法では見られない顕著な効果であり、AWGが持つ根源的な作用を示していると考えられます。では、なぜこのような変化が起きるのでしょうか。その鍵を握るのが、ファシアとその周囲に存在する「水」なのです。
「ファシア振動説」の核心は、AWGの効果を「ミクロ効果」と「マクロ効果」という二つの側面から捉える点にあります。
まず「ミクロ効果」とは、分子レベルでの働きかけです。私たちの体の約60%は水でできていますが、特にファシアの周囲には多くの水分子が存在し、その構造と機能に深く関わっています。AWGから発せられる特定の周波数の振動は、この水分子に働きかけ、その配列を秩序だった「コヒーレントな状態」に整えると考えられます。物理学者のジェラルド・ポラック博士が「第4の水の相(EZ水)」と呼んだ、エネルギーを蓄えた特殊な水の状態に近いものです。水分子がこのように整然と並ぶと、互いに反発しあう力が生まれます。赤血球の連銭が解除されるのは、赤血球の間にこの秩序だった水分子が入り込むことで、静電気的な引力が弱まり、自然と分離するためだと推測されます。この水分子の秩序化は、コラーゲン線維の機能を正常化させ、ファシア全体の環境を整える根源的な力となります。
一方、「マクロ効果」とは、もっと物理的な働きかけです。ファシアは時に、ストレスや炎症によって硬くなったり、隣接する組織とくっついて「癒着」を起こしたりします。これが痛みやこりの直接的な原因となります。AWGは、様々な周波数を組み合わせたリズミカルな振動を体に与えます。この物理的な「揺さぶり」によって、癒着したファシアが剥がれたり、硬くなった組織がほぐれたりする効果が期待できます。これは、単一の周波数を流し続ける一般的な低周波治療器とは一線を画す点です。同じ刺激を続けていると、体は「慣れ」てしまいますが、AWGのように周波数が常に変化する「ゆらぎ」のある刺激は、体の深層部まで効果的に働きかけ、血流やリンパの流れを促進するのです。
AWGオリジンの効果をさらに深く理解するためには、「特異性」と「非特異性」という二つの視点が重要になります。
「特異性」とは、AWGに内蔵されている数百種類もの「コード」が持つ、特定の目的を狙った効果のことです。例えば「肝臓」「痛み」「アシドーシス」といったコードを選択すると、それぞれに関連する特定の周波数パターンが照射されます。これは、特定の臓器や組織が固有の共鳴周波数を持っており、それに合致した振動を与えることで、鍵と鍵穴のようにピンポイントで機能回復を促すという考え方です。これは、ホメオパシーや他の多くの波動療法の根底にある理論であり、いわゆる「エネルギー医学」や「量子医学」的な側面と言えます。
一方で「非特異性」とは、前述したミクロ・マクロ効果のように、特定のコードに依存しない、AWGが持つ普遍的な効果を指します。水分子を整え、物理的に組織を揺さぶることで得られる血流改善やリラクゼーション効果は、どのコードを使用したかに関わらず、ある程度共通して得られるものです。これまでAWGの議論は「特異性」に偏りがちでしたが、この「非特異性」の効果も同様に重要であり、両者を合わせて考えることで、その全体像がより明確になります。
ちなみに、AWGオリジンは「QPA(Quasi
Particle Accelerator)」という別名も持っています。Quasi
Particleとは「準粒子」のことで、固体のように固まってはいないが、液体のようにバラバラでもない、秩序だった水分子の状態を指します。Acceleratorは「促進するもの」。つまりQPAとは、「水分子を準粒子という理想的な状態へと促進する機械」という意味になります。この名称は、AWGの本質がファシア近辺の水分子の挙動を整えることにあるという「ファシア振動説」の考え方と、見事に一致しているのです。
今月のジャングルカンファレンス
2025年07月03日
ファシアを知ろう(2)医学が見過ごしてきたもの〜ゴミ扱いされたファシアの逆襲〜
「長い間、解剖学者は結合組織を慎重に取り除き、教科書に登場する魅力的な筋、関節、器官のイメージを示してきた。…筋膜はまさしくお蔵入りとなっていた」。これは、徒手療法の専門家レオン・チャイトウが残した言葉です。この言葉は、現代医学が発展の過程で、いかにファシアという重要な組織を「無視」してきたかを痛烈に物語っています。
事実、大学医学部の解剖学実習では、主役である筋肉や臓器を明瞭に観察するため、それらを覆うファシアは「邪魔なもの」「ゴミ」として丁寧に取り除かれるのが常でした。その結果、私たちの多くが目にする解剖図は、ファシアという全身を覆うボディスーツを剥ぎ取られた、いわば「フィクション」の状態だったのです。
ではなぜ、これほど広範に存在する組織が見過ごされてきたのでしょうか。一つには、その機能が不明瞭だったことが挙げられます。神経や血管のように明確な役割が見えず、単に空間を埋める梱包材のように考えられてきました。しかし、より根源的な理由は、医学が「分類し、分解して理解する」という分析的な手法を至上としてきた点にあります。全体を繋ぐファシアは、この分析的アプローチとは相性が悪く、むしろ研究の邪魔になる存在だったのです。
しかし、超音波技術の進化がこの状況を一変させました。生きている体内でファシアが滑らかに動く様子や、癒着して痛みの原因となっている状態がリアルタイムで「見える化」されたことで、その重要性が見直され始めました。これは、医学の歴史における大きなパラダイムシフトと言えるでしょう。これまで「ないもの」として扱われてきた組織が、実は健康と病気を左右する重要な役割を担っていた。ファシアの逆襲は、まさに今、始まったばかりなのです。
医学の歴史において「あるにもかかわらず、見過ごされてきた」組織はファシアだけではありません。その代表例が、背骨の周囲に網の目のように存在する「バトソン静脈叢」です。この静脈網は、静脈でありながら逆流を防ぐ「弁」を持たない「無弁静脈」という特殊な構造をしています。弁がないため血流が滞りやすく、東洋医学でいう「瘀血(おけつ)」、つまり血の滞りが生じやすい場所とされています。鍼治療で背中に刺絡(しらく)を行うと出血が見られることがありますが、その血液の多くはこのバトソン静脈叢から来ていると考えられます。
しかし、この静脈叢もまた、多くの臨床医にその存在を知られていません。なぜなら、CTやMRIといった画像検査では、骨が白く映るため、そのすぐそばにある血管は非常に見えにくいのです。あるという前提で見なければ認識できない、まさに「見えないもの」だったのです。
私たちは、心理学で有名な「ルビンの壺」の絵を、壺として見るか、向き合う二人の顔として見るか、どちらか一方しか同時に認識できません。医学の世界でも同様に、血管や神経といった確立されたシステムに注目している間は、ファシアやバトソン静脈叢といった別のシステムを認識することが難しかったのかもしれません。しかし、統合医療が目指すのは、このどちらか一方ではなく、両方を同時に視野に入れる視点です。これまで見過ごされてきた組織に光を当てることは、生命をより全体的(ホリスティック)に理解するための不可欠なプロセスなのです。
「ガリレオは隠蔽の天才である」。これは、現象学の創始者である哲学者エドムント・フッサールが述べた、科学の本質を鋭く突いた言葉です。ガリレオやニュートンが確立した物理法則は、非常に美しく、普遍的な真理とされています。しかし、私たちが高校の物理実験で物体を落としても、その数式通りにきれいに落ちることは稀です。私たちはそのズレを「誤差」と呼び、法則の方が正しいと信じ、自分たちの観測した「事実」の方を修正します。フッサールは、この美しい法則のために、摩擦や空気抵抗といった現実世界の複雑な要因が「隠蔽」されていると指摘したのです。
この構図は、医学におけるファシアの扱いにそっくりです。筋肉や臓器の美しい解剖図という「法則」のために、それらを繋ぎ、包むファシアという複雑な「事実」は、長らく隠蔽されてきました。しかし、量子力学がニュートン力学では説明できない現象を解き明かしたように、現代医学もまた、ファシアという新たな視点を取り入れることで、これまで説明できなかった慢性痛や難病のメカニズムを解明できる可能性を秘めています。
この「隠蔽されたもの」に光を当てる動きは、統合医療の核心的なアプローチです。私たちは、既存の理論や常識という色眼鏡を一旦外し、目の前で起きている生命現象をありのままに観察する必要があります。ファシアの再発見は、医学が「ガリレオの隠蔽」から脱却し、より現実に即した、生命の全体性を捉える新たなステージへと進むための、大きな一歩となるに違いありません。それは、これまでフィクションであった解剖学を、真に生命を語るためのノンフィクションへと書き換える、壮大な試みの始まりなのです。
2025年06月30日
ファシアを知ろう(1)ファシアって何? 体の"第二の骨格"が持つ驚きの役割
「ファシア」という言葉を最近、耳にする機会が増えたのではないでしょうか。健康や美容、スポーツの分野で急速に注目を集めていますが、一体それは何なのでしょうか。従来、ファシアは「筋膜」と訳されてきました。文字通り、筋肉を包む膜としての認識です。しかし、この訳語はファシアの持つ広大な役割の一部しか捉えていません。近年の研究では、その重要性から「筋膜」という限定的な言葉をあえて使わず、そのまま「ファシア」と呼ぶのが主流になりつつあります。
では、ファシアとは何か。最も直感的に理解するには、鶏肉を調理する場面を思い浮かべてみてください。皮を剥いだとき、身との間に白く薄い、網目状の線維が見えます。あのサーッと引ける線維こそがファシアです。私たちの体にも、このファシアが頭のてっぺんから足のつま先まで、途切れることなく全身に張り巡らされています。それは筋肉だけでなく、骨、内臓、神経、血管といったあらゆる組織を包み込み、それぞれを適切な位置に保持し、同時にすべてを連結する、いわば全身を包むボディスーツのような存在なのです。
なぜ、この古くから存在する組織が今、これほどまでに脚光を浴びているのでしょうか。その最大の理由は、医療技術、特に超音波(エコー)検査機器の目覚ましい進化にあります。かつては魚群探知機のように大まかにしか見えなかった体内が、近年の高解像度エコーによって、生きている人間の体をリアルタイムで、そして非常に詳細に観察できるようになりました。これにより、これまで「ただの梱包材」や「解剖の際には取り除くゴミ」とさえ見なされてきたファシアの、層状の美しい構造や滑らかな動きが「見える化」されたのです。痛みの原因となるファシアの癒着や肥厚を客観的な画像として捉えられるようになったことで、ファシアは一躍、診断と治療の新たなターゲットとして医学の表舞台に躍り出たのです。
ファシアが単なる膜ではないことを示す最も象徴的な概念が、トーマス・マイヤース氏が提唱した「アナトミー・トレイン」です。これは、私たちの体が特定の機能的なラインに沿って、筋膜(ファシア)によって連続的につながっているという画期的な理論です。解剖学の教科書では、筋肉は一つ一つが独立したものとして描かれています。しかしアナトミー・トレインの視点では、それらの筋肉を包むファシアは分離しておらず、まるで電車の線路(トレイン)のように全身を縦横に走り、連結していると考えます。
例えば、最も有名なラインの一つに「スーパーフィシャル・バック・ライン」があります。これは足の裏から始まり、ふくらはぎ、太ももの裏、お尻、背中、首の後ろを通り、頭頂部を経て眉の上まで至る、体の背面を貫く長大なファシアの連結です。この考え方に立てば、なぜ腰痛の治療で足首や膝の裏に鍼を打つと効果があるのか、その仕組みが合理的に説明できます。離れた場所であっても、同じ線路の上にあるため、一方への刺激が張力となってライン全体に伝わり、遠隔地の問題をも改善しうるのです。
この「つながり」は、まさに東洋医学における「経絡」の概念と驚くほどよく似ています。経絡もまた、体の特定のルートに沿って生命エネルギー(気・血)が流れる道とされています。長年、その実体は謎に包まれてきましたが、『閃く経絡』の著者ダニエル・キーオン氏は、経絡の正体こそがファシアのネットワークであると主張しました。ファシアという物理的な構造を介して、アナトミー・トレインが示す「張力の伝達」と、経絡が示す「エネルギーの流れ」が統合的に理解されつつあるのです。
ファシアは、これまで別々のものと考えられてきた西洋医学的な身体観と東洋医学的な身体観を繋ぐ、まさに架け橋となる存在と言えるでしょう。この視点は、統合医療の分野において、今後ますます重要な意味を持っていくに違いありません。
ファシアの驚くべき役割は、体を機械的につなぐだけにとどまりません。実は、ファシアは情報を伝達する「生きた通信網」としての機能も持っているのです。
この革命的な考えの源流は、ビタミンCの発見でノーベル賞を受賞した科学者、セント・ジョージ・アルベルトにまで遡ります。彼は晩年、ファシアの主成分であるコラーゲン線維が、特定の条件下で電気を通す「半導体」になりうるという仮説を提唱しました。
具体的には、ファシアが引っ張られて張力がかかると、その圧力によって微弱な直流電流(ピエゾ電流)が発生するというのです。この発見は、なぜストレッチやマッサージ、鍼治療が即時的な効果をもたらすのかを説明する鍵となります。身体を動かしたり、外部から圧を加えたりすることでファシアに張力が生じ、その電気信号がネットワークを瞬時に駆け巡り、細胞レベルでの修復反応などを引き起こしている可能性があるのです。驚くべきことに、切断された指の再生実験などでは、交流ではなく、このファシアを流れるような微弱な直流電流でなければうまくいかないことも報告されています。
この「情報を伝える」という性質は、電気信号に限りません。ファシアのネットワークは、電子、光子(光の粒子)、さらには音波(振動)といった様々な物理的エネルギーの伝達経路にもなっていると考えられています。これは、私たちの体が単なる物質の集合体ではなく、エネルギーが絶えず流動し、相互に作用しあう動的なシステムであることを示唆しています。
ファシアは、その全身を覆う構造によって、体内のあらゆる場所で起きる微細な変化を瞬時に全体へと伝え、ホメオスタシス(恒常性)を維持するためのフィードバックループを形成しているのです。もはやファシアは単なる膜ではなく、全身の細胞と対話し、生命活動全体を統合する「生体マトリックス」そのものと言えるでしょう。
2025年06月29日
「ファシアを知ろう」の連載を始めます!
ファシアについては、ハイドロリリースとの関連で議論されることが現状としてはほとんどである状態ですが、ここでは幅広く、その可能性を探求したいと思います。
統合医療学会においても、会員限定ではありますが、ファシア部会を私が中心となって立ち上げ、今月20日にオンラインで第1回会議を開催します。統合医療学会会員の方は、是非ともご参加下さい。
好評であれば、本年の大会前にもう一度くらいの開催を考えています。なお、本年12月の岡山大会においてもファシア部会としてプログラムが予定されております。
ハイドロリリースに限定されない、ファシアの可能性を皆様と広げていきたいと思います。
その一環として「ファシアを知ろう」を開始したいと思います!
2025年06月06日
オンライン診療・統合医療相談のホームページ
2025年05月19日
オンラインでの統合医療相談を開始します!
コロナ禍においては、しかたなくオンラインを導入したのですが、現状として通院している方の方が多かったので、あまり必要を感じなかったのですが、だんだんと地方の方のニーズを聞くに従い、また、クリニックの会計システムなども大幅に変更予定なので、この際の思い切っての変更です。
加えて、オンラインという形式だけでなく、診療、とくに初診の形態も変更します。これまでは受診・施術が原則だったのですが、一回のみ、もしくは数回の統合医療相談にも対応していくシステムにします。
つまり、地方で統合医療の診療形態が近くにない、という方々を対象に、もしくは関東でもなかなか受診機会が取れない、といった方々へ向けて、統合医療相談という形で、いろいろなアドバイスを提供していきたいと思います。
これまでは、漢方ですか?ホメオパシーですか?波動ですか?オーソモレキュラーですか?等々、どの分野の診療かというご質問がメインで、統合的に、という方が極めて少なかったのですが、近年、統合医療という立場でのコメントを求められることが増えてきたのも理由の一つです。
また、統合医療として加えて、マトリックス医学という私独自の視点での医療の考え方を解説する中で、それに基づいてのアドバイスも期待される機会が出てきたのも更なる理由です。
AWG ORIGINという波動系機器のアドバイスに止まらず、マトリックス的視点からの医学的コメントが、やはり当院の特徴ですので、こうした視点からの、諸々の症状に対する対処方法を、オンラインを用いて皆様とともに模索していきたいと思っております。
詳細はHPに加えて、オンライン専用のHPも開設予定ですので、そちらをご覧ください。
まだ全貌は、ここにも記載していないので分からないかと思うのですが、マトリックス医学という独自の考え方を展開しています。マトリックス現象という、事象の理解方法とともに今後の大きなテーマになっていきますので、関心のある方は是非追ってみていてください。近いうちに出版によって、その一部を公開していきますので、乞うご期待!
2025年05月18日
ダイアローグ・マネジメント
組織於ける対話の意味を解説しているのですが、参考になる面もありつつ、対話・会話のファシリテーションなどの経験がないと分かりにくいのでは、と思うぐらい簡潔なので、何度か読む必要がありますね。
来月からはオンラインの充実を考えていますので、会話の在り方はまだまだ勉強です...
2025年05月06日
今度のカンファレンスはエリクソン、ポリヴェーガル、構造水を考えます
参加予定の方は、なるべく目を通して頂けると参考になると思います。関連する症例も提示して頂けると助かります。
加えて、前回のカフェで消化不良だったので以下も継続の課題図書とします。
2025年05月04日
最近の動向 AWGとファシアに関する考察
現在は、ファシアの本を執筆中で、ついそちらの原稿書きが優先になってしまい、気が付けば2か月です。
ファシアの本は、いわゆる一般的なファシアの解説というよりは、「AWG ORIGIN」の解説書で、その基本としてファシアに基づいて説明する、といった感じです。従来、AWGに関しては、波動系の治療器ということで、なんとなく素粒子や量子力学的な説明がされることが多かったものですが、それを整理して現状として理解しやすいようにまとめたものです。
その中では、これまでAWGが重視していたソマチッドサイクルなどの特殊な概念を用いずに、直観的に理解しやすい説明に変えました。その過程で、これまであまり正面から語られなかった「ハラノムシ」などの伝統医学的概念も、復活させました。その他、マトリックス的思考を基盤とした、デュアルシステム論も入れて、従来のAWG説明とはかなり異なるものになりそうです。
またソマチッド論も、生命体としてのソマチッドという視点ではなく、ソマチッドに満たされた状況はどのような状態なのか、という視点から、水分子の持つ潜在的エネルギーとして解釈してみたいと思います。その際のキーワードは、やはりポラック博士による「第4の水の相」となります。ソマチッド問題も基本的にこの概念を用いると、全く別な角度で突破口が開けるように思います。
そうしたものが皆様に受け入れられるのか、未だに心配ではありますが、そろそろ書きあがるので、夏か秋ごろには出版されるかと思っております。その際のご感想に委ねたいと思います(^-^;
今週木曜日は、ジャングルカンファレンスです。これまでのカフェとの隔月の交代方式から、少し変えて、カンファレンスにおいても参考図書を設けて、皆さんとそれをテーマに話し合いたいと思います。また従来通りのケースカンファレンスも続けますので、症例検討を希望される方は、変わらずに奮ってご参加下さい。
2025年03月06日
2025年3月・研究会のお知らせと近況報告
AWGに関しては、特に自律神経分野に若干の進展(修正)があるのと、腎機能分野では、その機能改善に新データが追加されましたので、それらを解説していきたいと思います。生理機能検査的な話題が、一応今回がラストで、今年は顕微鏡所見やエコーでの解析を導入していきたいと思っております。
また水分子の挙動に関しても見解が広がり、これまで以上に応用範囲が広がる考え方が出てきましたので、それらも解説していく予定です。ホメオパシーでもそうなのですが、どのように効いているかというイメージが持ちやすい研究結果があると、臨床にも大きく影響するみたいで、これまで以上に、AWGによるコヒーレント形成効果を臨床的に感じることが出来るようになってきました。
その次の週からは、本年度の統合医療学会の教育講座が開始です。今月の私の担当は統合医療総論について、で6月は基礎医学講座となります。それ以外にも本年は、基礎医学検定も学会主催でスタートする予定なのと、夏ごろにはいよいよ「ファシア部会」の立ち上げを予定しています。
2025年02月24日
最近の展開、マトリックス医学を中心に
ファシアからマトリックス医学への展開の理論化が進行中で、なかなかここでのご報告に至りませんでした。
現在、ファシア振動を中心に据えたAWGオリジンの解説書と、そこから導かれるマトリックス医学の射程の理論書の2冊同時進行中です。どちらかは春か夏までには出来そうです。詳細は、ここでもご紹介しますので、お待ちください。
また、メディカルホメオパシー医学会の総論論文として、ファシアとホメオパシーについての接点を論じた論文がもう少しで完成します。こちらは学会会員のみになりますので、皆様の目に触れることもないかと思いますが、探すと意外にどこかでみつかるかもしれません。
3月8日(土)に、今年最初の「マトリックス研究会」開催予定です。AWG(QPA)による治療効果や、マトリックス医学の展開にご興味ある方、クリニックまでご連絡頂けましたら、どなたでもご参加できます。
ファシアをめぐる議論から発展した「マトリックス思考」による医学への新しい視点について、今回はその基本から全体像をお話したいと思っています。
2025年01月26日
がん治療におけるファシアの重要性
そうした思考のきっかけとなった文章があったので、当時の掲載誌の文から少し改編してこちらに掲載します。来月初めがカフェで「ファシア」を扱うので、そちらに参加予定の方は予め読んでおいてください。
がん治療におけるファシアの重要性
統合医療とは何か
まずは統合医療とは何かという話から始めることにしましょう。統合医療とは、現代医療に補完代替医療を統合した医療という意味をもちます。それが主張する人の立場や考え方によって、多彩な形に分化し、今日の多様な意味合いを持つに至ります。
私はそれらの特徴を踏まえて、教条主義・折衷主義・多元主義・統合主義の四つに便宜上、分類しています。
この中でも多元主義は、医療職における多職種連携とも関係してくるので最後にまとめて述べるとして、がん治療の場面で、重要な側面を有するのが統合主義になります。そこで本稿では、具体的に当院で行っている統合主義的な取り組みの基礎となる概念の「ファシア」と、そこからがん治療への新展開の可能性をご紹介していきましょう。
ファシアとは何か
ファシアとは、これまで「筋膜」と訳されてきた用語ですが、正確には筋肉の膜にとどまらず、幅広く結合組織や腱・筋膜などを表すものとなります。つまり、皮膚や内臓、筋・骨格といった従来の解剖対象のもの以外「全て」にあたりますので、視点を変えれば「人体最大の臓器」と捉えることもできるわけです。
これがなぜ、統合主義的な用語かというと、経絡システムや瘀血・水滞といった東洋医学的な概念と、気・波動・量子といったエネルギー医学の基礎を、現代医学的に説明するのにピッタリの考えだからなのです。まさに統合医療を具現化している用語といっても過言ではありません。
ファシアからの新たながん治療戦略
これまで東洋医学的世界では「がん」は、気滞や水滞が瘀血と絡まる形で形成されてくるものと理解されてきました。いわゆる汚れた血、停滞した血が「がん」などの病理産物を発生させるという考え方です。それゆえに悪い血を抜く方法として「刺絡」という鍼法が生れてきたと言えるでしょう。
しかし「悪い血」というのは、そもそもどんなものなのでしょうか。こうした表現は常に現代西洋医学側からは疑問を呈されてきたものでもあります。またこれに関連して、首や肩の凝りのようにゴリゴリのスジのように触れる所も実際はどうなっているのか、こうした実践的な混乱を解決してくれるのが、ファシアという概念なのです。つまり、うっ滞した血管の周辺には、ファシアも多く存在し、ファシア内部には炎症性物質うぃ溜め込んだ形になっています。そこを針で浅めに刺し(刺絡)、カッピング(吸角)により陰圧をかけます。これにより血管およびファシア内の液体が、内部の炎症性物質(グロブリン等)とともに引くことが出来ます。つまり身体内部でくすぶっている慢性炎症のタネを除去することが出来るというわけです。
ファシアを介した治療は、刺絡に限りません。肩こりや腰痛の時に現れる「硬結」は、ファシアが互いにくっついてしまった状態(重積)と考えることができ、そこに生理的食塩水を注入して、重積状態をほぐすこともできます。瘀血などの東洋医学的病理産物や、身体の歪みによる固縮による内圧の亢進は、それ自体が「がん」の発生・拡大・転移の大きな原因とされています。これらの病態は、ファシアという考え方を知るだけで、具体的に刺絡やハイドロリリースといった手技により改善することができます。さらに広く、鍼灸一般や、整体、漢方の腹診へも応用可能となります。
がんそのものの性質ばかりではなく、その周辺状態へと視点を転換することでがん治療さらに大きな可能性を有することができるのです。
線維化
医学研究の分野では「線維化」と疾患の関係に大きな注目が集まっています。従来はがんや動脈硬化の源といわれる慢性炎症の、なれの果てのような扱いだったのが実はその病態に大きく関与していることが分かってきました。
この線維化もファシアと大きく関連します。線維芽細胞の形成するコラーゲンが、ファシアの基盤となり、そこから形成される瘀血や重積となって、いわゆる臓器の実質細胞と相互作用しながら線維化に進展すると考えらえています。一般的にがんの物理的特性として硬く閉じ込められた状態で、増大・転移しやすいといわれます。その意味では、ファシアを操作することで、がん周囲の固縮した状態から解放するというがん治療における補完的な役割を担うことができます。
統合医療の権威アンドルー・ワイルの強調する自発的治癒力というものも、こうした固縮状態からの開放によってそのスイッチが入るようなものなのではないでしょうか。
ファシアの異常は実際にどのようにして解るのか
それではファシアの異常は、どのようにしたら捉えることができるのでしょうか。直接的に観察する方法としては「超音波検査」が挙げられます。体表モードで皮下のファシア重積などはその概容を捉えることができます。
またそうした重積の原因となる粘りのもとは、光学顕微鏡や、さらには暗視野顕微鏡でフィブリン塊や赤血球連銭としても観察可能です。毛細血管との関係を直接観察するには毛細血管顕微鏡によりリアルな実態が観察できます。こうして観察されたものの基本はコラーゲン線維です。つまり基本構成成分であるコラーゲンの状態がすべての基本となるわけです。生体であれば、このコラーゲン周囲にびっしりと水分子が存在し、その状態は、ある種の波動治療器やホメオパシー、アーシング等によっても影響を与えることでき、それらの治療の理論的基盤となっています。
おわりに
このようにファシアという用語を用いると多くの統合医療に関する領域を統合できるように なります。そしてこの新たな視点はこれまでの治療法の壁を超える可能性を示し、新たな治癒への道のりをもたらす可能性があります。
しかしそれはたった一つの考えでがんが治るといった安直な方法ではありません。
様々な身体への視点、さらには心理・精神的視点、社会・経済的視点も欠かすことができません。
つまり現実の統合医療は、多元主義であることが現実的なのです。このため当院ではジャングルカンファレンスといった統合医療のカンファレンスを定期開催し、様々なセラピスト(リフレクソロジー・骨盤調整・キネシオロジー・靴調整・アーシング・心理カウンセリング等々)とともに意見交換・対話を続けています。世界の趨勢たる統合医療は、統合主義的な新たな視点を提供しつつも、現実的には柔軟に多元主義的な対話を継続する医療として一歩ずつ発展していくのではないでしょうか。
2025年01月16日
2月のジャングルカフェの課題図書
課題とするレソンダックのファシア本ですが、全面的に賛成というわけでもなく、個人的には意見がある部分もあるのですが、それほど大著ではなく読みやすいので、選択してみました。カフェ参加予定の方は、一度ざっとでよいので目を通しておいてください。
2025年01月13日
今週末にAWGオリジン研究会が愛知医大にて開催されます
私も第1回は参加のみでしたが、今回はAWGの生理機能をこれまでの実験・測定データから推測して、発表します。いわゆる波動系の説明のみであった本機種に対して、ほぼ初めて生理機能に言及した発表になる予定です。
以下、当日の発表資料です。ご興味ある方は、株式会社アジアス、もしくは、小池統合医療クリニックまでお問い合わせください。
第2回 AWGオリジン研究会
AWG ORIGINは一体何をしているのだろうか?
小池弘人(小池統合医療クリニック)
AWG ORIGINはこれまで、物理学者の保江邦夫の仮説的なメカニズムとして水分子のコヒーレント性を高めることが想定されている。しかしその実証的な研究は十分とは言えず、未解明の点も少なくない。
そこで本発表ではその実態を把握すべく、通常の血液生化学検査に加え、生理学的視点から脈波による自律神経検査、介入前後の暗視野顕微鏡所見などを駆使して、測定データや顕微鏡画像を供覧し、現段階における生理機能をまとめたい。その時の重要な補助線となるのが「ファシア」である。
AWG ORIGINから発せられる多彩な振動数を組み合わせる中で、ファシアはどのような挙動を示すのか。間接的ながら得られたデータから、本機の暗示するエネルギー医学の新たな地平を考察したい。
小池弘人
1995 群馬大学医学部卒業
2004 アリゾナ大学統合医療プログラム修了
2006 群馬大学医学部非常勤講師(〜2022)
2007 小池統合医療クリニック開設
医学博士(臨床検査医学)・人間科学修士(哲学)
日本統合医療学会認定医・日本内科学会総合内科専門医・日本メディカルホメオパシー学会専門医・日医認定産業医
日本統合医療学会業務執行理事・マトリックス統合医学研究会代表理事・統合医療カンファレンス協会代表理事・日本城郭検定2級
2025年01月02日
歴史的方法と科学的方法 時間的・空間的考察の補強
理科系、文科系の境界線上にあるような内容にしたいと考えているのですが、それゆえに両者の方法論について少し思うところを。理系・文系と言ってもいろいろな分野があるので一概に言えないのですが、その大きな方法論の違いとしては、やはり時間軸に沿う「歴史的方法」と、空間的(同時代的)な物事の相互作用を実験的に調べる「科学的方法」が代表的。
三木成夫の言うように人間(というか生命体)は、時間的・空間的な要素が縦横の糸のように織られた存在なので、この両極の二つはどちらも欠かせない方法論となります。
歴史的方法論の特性としては、その一回性が重要。何度も同じように実験することや、同一条件での再現はほぼ無理。しかしだからと言って、一度起きたことが絶対なのか、ということを考えることもまた重要。邪道のそしりは免れないが、そこにはやはり「もしも…」の志向性は極めて重要ではあります。
反対に科学的方法論の特性として、実験可能、理論的には再現可能という事です。厳密な問題はさることながら、とりあえずプラグマティックな方法論の対象となります。それゆえに真理などという言葉も使いたくなる衝動に駆られる領域。
科学的方法論を、強いて歴史的方法論を持ち込むとするなら、歴史シュミレーション的なもしもの状況を導入せざるを得ません。戦略論や地政学といった分野が、これにあたるのでしょう。そうでなければ、決定論的に確定した事実を、より補強する議論しか成り立たないことになっていくわけです。これは折衷的な事実の並立を防ぎ、より起こりうる可能性、蓋然性がどちらが高いのかという事を吟味することなのです。
では歴史的方法論を、横並びの空間的配置である科学的方法論の世界に持ち込むとどうなるのでしょうか。これこそが時代背景により異なる見解、科学史で議論される領域です。具体的には地動説の前の天動説における説明、という方が分かり易いでしょうか。量子力学以前と以後の物理学の在り方などもそうでしょう。これはいわゆる、フーコーにより洗練された哲学的「考古学」と言える領域です。今はない(もしくは忘れられた)、でもその当時は常識的であった「まなざし」という視点。科学的概念を立体的に見るとき、この「まなざし」の視点が不可欠になるのです。
歴史的方法と科学的方法、それらには各々「もしも」と「まなざし」といった補完的な視点がありうる。そうした視点を持つことで、各々はその弱点を補強することが出来る。歴史と科学の境界領域における絶好の観測点を確保するためには、この両者への、意識的な反省の視点を持ち続けようとすることが何より重要なのかもしれない。そんなことを感じております。
2025年01月01日
2025 新年あけましておめでとうございます
本年もよろしくお願い申し上げますm(__)m
新年の診療開始は、1月9日㈭となります。なお電話でのお問合せ・予約対応等は1月6日から行っております。
寒い日が続いておりますが、お身体に気を付けられながら、皆様良いお正月をお過ごしください。
2024年12月31日
量子もつれ、アリゾナのPIMでも扱われていたっけ
すべてのプログラムのスタートとして、科学哲学的な講義から始まるため、クーンのパラダイムという用語を生んだ『科学革命の構造』(少し前に新版となりましたね)とともに、読むべきものリストに掲げられていたのが、EPRパラドックスに関する解説論文でした。
私自身、物理学専門ではないので、クーンのパラドックスまでは何とかなったものの、EPRパラドックス(そもそもこれは現在パラドックスではなくなり相関と称するのが妥当)から導かれる「量子もつれ」になると、当時、初心者向けの解説書などほぼ無い状態だったので、何を言いたいのかよくわからなかったのを今でも覚えています。その後、スピリチュアリティなどの場面で、こうした用語を目にすることが増え、「非局在性」との関連で、ワイルがプログラムの初めの哲学のところでこうした話題にふれていたのを理解するようになりました。
まあ、それでも、この話題を物理学本体から離れて、いわゆる医学関係の「こちら」の話題とリンクさせることについては、大いに文句がつくというのが現状でしょうが。(物理現象は物理の枠内で止めておくべきという医学側の主張は多いですよね)しかしNHKの番組でも、綜合ナレーションを宇多田ヒカルが務めていたことからも、そちらへも当然、波及するものとして制作者は考えているのは明白でしょうね。
最近、ファシア近辺で話題にしている、コラーゲン線維周辺の水分子のコヒーレント性なんかも生物物理系の研究者に噛みつかれるのも、そうした風潮の一環なのでしょう。かつて傷の消毒ナシが外科に受け入れにくく、当初の糖質制限が内科に受け入れにくかったことと似ていて、今後の展開が予想されやすい、とも言えますね。歴史はほんとに役に立ちますね…
2024年12月30日
「義経愚将論」に思うこと
内容はまさに題名通りなのですが、これまであまり関心のなかった源平合戦について考えさせられるものでした。歴史的考察もさることながら、「結果論」がすべてなのか、ということを考えさせられました。よくテキトーなプラグマティズム批判に、結果が全てとか、うまくいけば何でも良い!みたいなのがありますが、これに対しては強く違和感を感じてきました。
プラグマティズムの議論をする際は、典型的なものとしては科学実験的な場面であり、その際に「理論」よりも「事実」を重んじる、という面が強調されると思います。「量子もつれ」の理解などにもこの思考は有用だと思います。
それに対して、通俗的(俗悪的)な理解としては「勝てば官軍」的な、つまり結果のみで評価しプロセスは問わないという、時に非倫理的なものをも肯定する態度です。こうした流れは、成功者の自伝や、新自由主義的な文脈で述べられることも多く、いわば「歴史的」な場面が多いように思います。つまり、再現性の効かない一度きりの場面です。
歴史解釈はまさにこれなのですが、それゆえに近年は「IF」を思考する必要性も、時に話題にされたりします。源平合戦は、当然結果は覆らないわけですが、本当に平家は滅亡するべくしてしたのか、そうしたことをもう一度考えても良いという事を感じさせられました。
統合医療学会(宇都宮)の個人的総括
個人的にも、発表の多かった大会でしたので、これまでのいくつかのテーマの総括ともなった学会でした。箇条書きで気づきをいくつか。
・多職種連携:シンポジウム座長として参加しましたが、多くの方が当院の多職種連携に関心を持たれていることが分かりました。またスタッフの川浪さくらさんによるリボンでの連携の発表は、第三者的視点で自分たちの組織を見直す良い機会となりました。
・統合医療総論:前年の伊勢田哲治教授をお呼びした流れから、学会学術誌へ「総論」として発表した論文の解説的講義を行いました。この手の発表を始めたころは、一般発表であったこともありほぼ「関心を持たれず」という状況でしたが、ここ数年、こうした哲学的課題の重要性を理解される方も増え、シンポジウムはかなりの盛況でした。総論理解への熱量を感じられるシンポでした。
・身体技法:甲野善紀先生と岡田慎一郎先生をお呼びしたこともあって、自らも大いに勉強になった大会でした。特に岡田先生の講演は初めてでしたので、昔さんざん稽古した「膝行」や「座業」が、股関節の固着によって、困難になっているのを自覚し、現在対策を考え中です(笑)リボンで膝行や受け身教室みたいなこともしてみようかと考えております。
・ファシア:直近の理事会で「ファシア部会」が承認され、あらためてファシアとは何かを考える良い機会になりました。AWGのランチョンセミナーとファシアから線維化現象へのシンポジウムの2テーマ取り扱っただけに、多くの学びを得ることが出来ました。ここからファシアを越えて、マトリックス概念で議論する重要性も感じました。
2024年12月12日
第28回統合医療学会が宇都宮で開催されます!
一般市民を対象とした無料公開講座も、土曜日と日曜日の2演題ありますので、関東の方で統合医療に関心のある方は是非ご参加ください。
14日(土曜)16:30〜17:30、武術研究者の甲野善紀先生「人が人として共生していくために「対応の原点」としての武術を考える」
15日(日曜)11:00〜12:00、社会学者の上野千鶴子先生「おひとりさまのの老後を支える介護保険が危ない!」
私の参加するものとしては14日、10:40〜12:10 シンポジウム1「多職種多機関連携」に座長として、12:20〜13:20 ランチョンセミナー「QPAが拓くファシアから生体マトリックスへの新たな可能性」に演者として、16:00〜17:40 シンポジウム3「学術研究の方向性」では「統合医療総論の構築」演者として登壇します。16:30〜の甲野先生の市民公開講座1においても、鶴岡大会長と共に座長の予定です。15日は15:30〜17:00 シンポジウム8「慢性炎症とファシア」にシンポジストとして参加予定です。
日本統合医療センター関連としても、シンポジウム1の発表者として川浪さくらさん、一般演題において、藤倉まことさん、三村博子さん、佐藤公典さん、山本広高さん、野口裕司さん、らが発表予定となっております。
寒い季節になりましたが、皆様、風邪などひかぬようにお気を付け下さい。宇都宮、寒そうなので、私も気を付けます!
2024年10月07日
ハラノムシ医学への道
トーマス・カウワン著『ウイルスは妄想の産物』もそのうちの一冊。こちらはウイルス一般の存在を否定しているわけではないので、やや題名が過激な印象がありますが、それ以外の視点として生物学全体に疑問を呈しているところは興味深いです。細胞説全体に対しての疑義なのですが、これは本書では触れられてはいませんが、臓器特異説、組織説、細胞説といった通常の医学史での展開に大きな影響を与えるものにも思われます。
また、ここに細胞説への疑義を読むことで、三木成夫に大きな影響を与えたビシャ―の組織論、膜論などを再検討してみる必要も感じました。従来の生物学への疑問からは、水分子の在り方の問題、これは相分離生物学的な主張とも極めて似ている点でもありますが、このあたりも特に興味深い。とりわけ水分子のコヒーレント状態に言及している点も、個人的にはマトリックス論との関連でとても惹かれました。
ビシャ―についての一般的な考察は以下。
また、これもヒカルランドになりますが、徹底してウイルス・細菌による感染症を否定的に述べ、かつ医療の歪みを指摘したD.レスター&D.パーカー『本当は何があなたを病気にするのか』もこうした系統になるでしょうか。個人的な感想としては、全てを納得できるというものではありませんが、考えさせられる記載も少なくない書籍ではありました。
これらの書籍を読む中で、確かにどの立場から記載したものなのか、ということの重要性ということは強く感じることが出来ました。
ある疾患や不調、症候群を、化学物質の毒性を軸に理解するべきか、細菌やウイルス・寄生虫など生物学的な軸で理解すべきか、容易に決定できないことも少なくないでしょう。化学物質中心に行けば、確かにナチュラルハイジーン的になるでしょう。そしてこの反対の立場、それも伝統的なところまで立ち返ったものが「ムシ」の観点ではないかと、最近、ずっと考えております。
古典医学的に、いわゆる虫因論とされるもので、霊因論と心因論との中間に位置するとされます。簡単に分かり易く述べれば「ハラノムシ」のムシです。かつて心身二元論が徹底される以前は、精神的な疾患を、この虫因論で解決していた時期があり、今日の医学を考える際にも多くの示唆を与える視点でもあります。反医学的な毒物起因論による反感染症論争の時に、こうした伝統医学的なまなざしは、当然考慮されていません。しかし古典的には確実に、今日の意図とは別に、存在した認知方法だけに、これはこれで再検討すべきではないかと最近は考えております。
詳しい構想はまた後日、ここで記載することとして、とりあえずこうした認識論まで含めた医学的考察を「ハラノムシ医学」とでも名付けておこうと思います。
こうした発想も最近のマトリックス的な思考によって出てきたものです。今後、いろいろと書いていこうと思います。