2006年08月28日

代替医療におけるプラシーボ効果

 プラシーボ効果は医学に関係する方であれば、なんとなくマイナスのイメージを持つ人も多いのではないだろうか。しかし、代替医療や統合医療の観点から見ればどうだろう。積極的に活用する、という見方もでてくるのではないだろうか。ここでは以前書いた原稿を紹介し、プラシーボ効果について再考する機会としてほしいと思う。

 

従来のプラシーボ効果をめぐる状況

 プラシーボ効果とは、一般に薬理効果のない物質や治療法であるにもかかわらず、臨床的効果を及ぼすもの、と言えよう。それゆえプラシーボは「不活性または作用のない物質」と定義されることが多い1)。広く医療行為においては、実際には不可分に含まれていると考えられるが、研究的側面においては、排除すべきものと考えるのが一般的である。この効果をいかに排除するかが、臨床研究の成否を握るといってもよく、その方法論上で最重要とされているのが「二重盲検法」である。それゆえこの方法は、広く薬物等の効果判定として用いられているわけであり、代替医療の検証においても例外ではない。つまり、プラシーボ効果を除去しなければ、科学的にその効果を証明したことにはならないのである。この方針は、代替医療の検証において、とりわけ、ハーブや健康食品等の効果の検証において特に有効といえる。

 

代替医療評価における二重盲検法の問題点

 ただし、この方法にはバイアスを完全に除去できているのかという問題点もある1)。バイアスを最小限にした適切な対照群を設定しなければならないという問題である。薬物類の検証においては「偽薬」を設定しなければならないが、カイロプラクティックやアロマセラピーなど、偽薬にあたるコントロールを設定しにくい療法の検証は困難である。鍼灸の検証においては、偽の鍼等を用いて、方法論の工夫をしているものの、厳密な意味では問題点も少なくない2)。また、そもそも代替医療の本来の性質から、心理反応を積極的に利用する側面もあり、その効果判定からプラシーボ効果を除去することの是非も議論されており、積極的に臨床に取り入れるべきという見方もある3)。つまり、代替医療はプラシーボ効果を積極的に用いる体系である、とも言えるわけである。ここで我々は、代替医療を研究するにあたっては、プラシーボ効果に関して、肯定的と否定的意義の二つの面を考慮する必要がある。こうしたスタンスの必要性は、通常の現代医療における臨床研究との大きな相違点といえよう。

 

代替医療と現代医療の接点としてのプラシーボ効果

 それでは、プラシーボを肯定的に取り扱うからといって、そうした代替医療研究は「科学的」ではないのだろうか。プラシーボはただの「気のせい」だけであって、何ら人間に証明しうる生理学的変化をもたらすものではないのだろうか。そもそも代替医療は、既知、未知を問わず、様々な機序を介して、生体の治癒機転に働きかける医療ともいえる。つまり妥当な科学的方法であっても、プラシーボであっても、生体の治癒へのメカニズムに働きかけていれば同意義であるととらえられる。想定する生体の治癒メカニズム(自律神経系・生体防御系・内分泌系等の連携)は、実態をもつものであり、これ自体は科学的説明が可能である。これらを、プラシーボ研究で著名なミシガン州立大学のハワード・ブローディ教授は自著の中で「体内の化学工場」と表現している4)。つまり、「実薬」であっても「偽薬」であっても、「体内の化学工場」は同等に治癒機転に働きかける。その結果、治癒がもたらされるのであれば、その原因は本質的に関係ないとも言える。こうした観点から、代替医療の臨床においては、プラシーボ反応はことさら、除去すべきものではない、という見方ができるわけである。これは、こと代替医療に限る問題でもない。現代医療においても、昨今、個別性を重んじた医療ないしは全人的医療といった概念の重要性が叫ばれている。また、そこに通低する思想も、科学万能的思想から、「語り」を重視する「ナラティブ」重視へと変貌している。こうした流れの中で、これまでのプラシーボに対する従来の意味づけも変化してくるのは自明である。従来の薬物療法や外科手術においても多分にプラシーボ効果は観察されている3)。つまり、両者にとって不可欠かつ、共通の接点としてプラシーボ効果は、非常に重要な役割を持つと言えよう。

 

統合医療におけるプラシーボ効果

 この考えをベースにすると、代替医療を現代医療の中に統合していこうとする「統合医療」において、プラシーボが重要な意味があることがわかるであろう。つまり、統合医療研究という場合、現段階では、代替医療の基礎研究的側面と実際の臨床的側面とでわけて考える必要がある。我々は今後、この分野においてプラシーボ効果というものを考えるにあたって、このように分けて考える必要があるだろう。また将来的には積極的なプラシーボの評価という大きな発想の転換の成否が、新たな医療、「統合医療」研究の成否ともなるだろう。

 

(参考文献)

1)A K Shapiro/赤居,滝川,藤谷訳: パワフル・プラセボ, 協同医書出版社, 2003

2)川嶋朗,山下仁: 鍼灸治療, 臨床検査47:719-724, 2003

3)J E Pizzorno, M T Murray/帯津良一監修: 自然療法, 産調出版, 2004

4)Howard Brody/伊藤はるみ訳: プラシーボの治癒力, 日本教文社, 2004

 



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