2016年12月23日
多様な療法との付き合い方(7)
多様化の波は医療においても押し寄せています。そうした議論です。
7.医療における多様化の波
医師一人一人の信条や好みとは別に、今後ますます多くの補完医療が「医療」の現場に出現してくるでしょう。こうした際に、ただやみくもに否定ないしは無視をする態度では、患者さんを保護することはできません。
また、「語り」を強調するNarrative-based
Medicine (NBM)といった概念の重要性も求められる中で、正統医療以外の視点に耳を傾ける柔軟さも、これからの医師には求められてくることでしょう。世界的には補完医療として扱われる「漢方」が、統合医療のみならず家庭医療の領域で再評価されつつある昨今、不定愁訴や社会的問題として片付けられてきた問題に、多彩な補完医療がヒントを与えてくれることがあるのではないでしょうか。そのためにも我々は一定の見識と信条を持ちながら、多様な「他者」に耳を傾けていかなければならないのです。そしてそれが生物多様性を皮切りに、医療分野においてこれから押し寄せてくるであろう、多様化の波を乗り切る方策であるのは言うまでもないことなのです。
多様な療法との付き合い方に一定の決まりはありません。ただジャングルカンファレンスにおける「多元的な構え」で示されるような点に留意しながら、誠意をもって相互了解に努めるということが重要なのです。なお本稿における「多元」と「折衷」の解釈は、ナシア・ガミーの著作4)5)に拠っており、関心のある方は是非とも原著にあたられることをお勧めします。
ガミーの主張するところ6)をまとめると、一元的と多元的の両観点から、諸療法の並立問題を考えており、幼稚な一元論である教条主義や、あまりに理想的に過ぎる統合主義に対しては、実際の臨床的ではないとする論を展開していることになります。それゆえに複数の医療体系の並立においては、多元主義こそが目指すべき姿勢であるとし、対照的に悪しき並立の在り方として「折衷」を批判しています。本論はこの主張に従い、多職種連携の要諦を多元主義とし、話し合いに価値を置いて展開してきました。そして実際の臨床的な組み合わせや方策の選択は、この思想的基盤の上にしかありえないことは言うまでもありません。
絶対者の示す真理ではなく、共に試行錯誤しながら道を探る、そこにこそ諸々の医療現場において問題となる信念対立7)を解決する連携が構築されていくのではないでしょうか。これこそが浅薄な「正しさ」を超える多様な療法との付き合い方と言えるでしょう。