2020年07月13日
自律神経について少し考えたこと
前回に引き続いての内容です。ファッシアについてもう少しメモしていきます。
『筋膜マニュピレーション』では、ファッシア(筋膜)の基本原理として、o-f(臓器筋膜)単位、a-f(器官筋膜)配列、システム、の3つに分けて考えていました。
このうち「o-f単位」は、臓器単独の筋膜との関係性で、張力棒でシートを広げたような「引張構造」を基盤とし、局所的な関連痛の説明として用いられていました。いわば臓器による局所的な筋膜への影響です。体幹部を、頸部、胸部、腰部、骨盤部の4つの腔に分け、そこに引張構造で吊るされた臓器が、局所的な症状を及ぼすというわけです。
ここではさらに、交感神経、副交感神経の腸内システムとして、各臓器における神経叢単独の影響を示しています。つまり腸神経として、中枢とは別に独自に作用する系でもあり、後に交感・副交感との連絡を持つようになるというわけです(この視点は従来の自律神経の解説ではあまりみないところ)。
「単位」の考えを受けて、その連なりとしての「配列」です。配列は、内臓配列、血管配列、腺配列、受容器配列から成り、金門橋のような橋げたを有する吊り橋構造の「懸垂線(カテナリー)」を基盤として説明されます。遠位の関連痛を説明する概念として用いられています。前の記事で書いたように、器官として説明されますが、あきらかに経絡との整合性を意識したものだと思います。なので、逆に言えば、経絡的な(鍼灸的な)理解で良い、とも言えるでしょう。無理にカテナリー的な概念を入れなくても(入れてもそれほど難しくはないのですが)経絡への負荷という視点からでも理解できるように思います。また、経絡の概念が、思っている以上に西洋医学的に理解できるので結構すっきりします。
そして3つ目がシステム(系)です。幅広く浅筋膜全般における関連を示しており、具体的には免疫系、代謝系、体温調節(皮膚)系、心因系とざっくりと分類できます。皮下組織として括られる場で、皮膚構造そのものを扱ってもいるので、3つの中では一番分かり易いのではないでしょうか。
これらの3つは診察のポイントとしても分かり易く、ファッシアを意識した診療がやりやすくなりそうです。
これらのファッシア的な視点だけでなく、この本では自律神経全般を考えなおす良い機会にもなりました。ファッシアが内臓への影響を及ぼすとすると、その理論的な基盤は、皮膚や血管を基礎にした交感神経系が重要になります。つまりファッシアは交感神経を介して、神経節から内臓に影響することになります。その神経節がただの交感神経のシナプス交換の場だけでなく、いわば小さな脳として機能するというのです(筋骨格系における筋紡錘の役割としています)。
当然、従来の自律神経のテキストにはそうした説明はありませんから、これまでとは違った斬新な自律神経に関する解釈を必要とします。この本では、自律神経の特徴としても有名な相互に拮抗的な二重支配的視点は、自律神経系において本質ではないとする立場がとられます。確かに、従来の自律神経の解釈を変更することで、よりファッシアの臓器への影響を記述しやすくなると感じました。
こうした自律神経についての考え方の変更は、この分野に限らず、話題になったもので言うと「ポリヴェーガル理論」などが代表的ではないでしょうか。これまでの交感・副交感のシーソー的関連ではなく、迷走神経を有髄と無髄とに分類し、不動化などのいわばマイナス的なものを「背側」とし、社会性を有するものを「腹側」とするというものです。これにより、これまでの副交感によるマイナス面の解釈が分かりやすく、臨床に適合したものとなりました。
これらの例からも分かるように、これまでの自律神経の説明には無理が目立つようになってきたように思います。シーソー的な拮抗関係は説明としてはスマートなものの、あまりに臨床的な例外が多く、実臨床を行うものとしては不便といわざるをえません。それでも学生向けの教育などでは、分かり易いなどの長所も多いので、これからもある程度は継続していくのでしょうが、実際には、大きな概念のモデルチェンジが行われることでしょう。
これは物理学における古典力学と量子力学的な関係に近いのかもしれません。こうした例からも「分かり易いモデル」というのはそれだけで大きな「盲点」を生み出しやすいということが分かりますね。通常医学といわれるものでも大きな変革を迎えつつあるのかもしれません。
『筋膜マニュピレーション』では、ファッシア(筋膜)の基本原理として、o-f(臓器筋膜)単位、a-f(器官筋膜)配列、システム、の3つに分けて考えていました。
このうち「o-f単位」は、臓器単独の筋膜との関係性で、張力棒でシートを広げたような「引張構造」を基盤とし、局所的な関連痛の説明として用いられていました。いわば臓器による局所的な筋膜への影響です。体幹部を、頸部、胸部、腰部、骨盤部の4つの腔に分け、そこに引張構造で吊るされた臓器が、局所的な症状を及ぼすというわけです。
ここではさらに、交感神経、副交感神経の腸内システムとして、各臓器における神経叢単独の影響を示しています。つまり腸神経として、中枢とは別に独自に作用する系でもあり、後に交感・副交感との連絡を持つようになるというわけです(この視点は従来の自律神経の解説ではあまりみないところ)。
「単位」の考えを受けて、その連なりとしての「配列」です。配列は、内臓配列、血管配列、腺配列、受容器配列から成り、金門橋のような橋げたを有する吊り橋構造の「懸垂線(カテナリー)」を基盤として説明されます。遠位の関連痛を説明する概念として用いられています。前の記事で書いたように、器官として説明されますが、あきらかに経絡との整合性を意識したものだと思います。なので、逆に言えば、経絡的な(鍼灸的な)理解で良い、とも言えるでしょう。無理にカテナリー的な概念を入れなくても(入れてもそれほど難しくはないのですが)経絡への負荷という視点からでも理解できるように思います。また、経絡の概念が、思っている以上に西洋医学的に理解できるので結構すっきりします。
そして3つ目がシステム(系)です。幅広く浅筋膜全般における関連を示しており、具体的には免疫系、代謝系、体温調節(皮膚)系、心因系とざっくりと分類できます。皮下組織として括られる場で、皮膚構造そのものを扱ってもいるので、3つの中では一番分かり易いのではないでしょうか。
これらの3つは診察のポイントとしても分かり易く、ファッシアを意識した診療がやりやすくなりそうです。
これらのファッシア的な視点だけでなく、この本では自律神経全般を考えなおす良い機会にもなりました。ファッシアが内臓への影響を及ぼすとすると、その理論的な基盤は、皮膚や血管を基礎にした交感神経系が重要になります。つまりファッシアは交感神経を介して、神経節から内臓に影響することになります。その神経節がただの交感神経のシナプス交換の場だけでなく、いわば小さな脳として機能するというのです(筋骨格系における筋紡錘の役割としています)。
当然、従来の自律神経のテキストにはそうした説明はありませんから、これまでとは違った斬新な自律神経に関する解釈を必要とします。この本では、自律神経の特徴としても有名な相互に拮抗的な二重支配的視点は、自律神経系において本質ではないとする立場がとられます。確かに、従来の自律神経の解釈を変更することで、よりファッシアの臓器への影響を記述しやすくなると感じました。
こうした自律神経についての考え方の変更は、この分野に限らず、話題になったもので言うと「ポリヴェーガル理論」などが代表的ではないでしょうか。これまでの交感・副交感のシーソー的関連ではなく、迷走神経を有髄と無髄とに分類し、不動化などのいわばマイナス的なものを「背側」とし、社会性を有するものを「腹側」とするというものです。これにより、これまでの副交感によるマイナス面の解釈が分かりやすく、臨床に適合したものとなりました。
これらの例からも分かるように、これまでの自律神経の説明には無理が目立つようになってきたように思います。シーソー的な拮抗関係は説明としてはスマートなものの、あまりに臨床的な例外が多く、実臨床を行うものとしては不便といわざるをえません。それでも学生向けの教育などでは、分かり易いなどの長所も多いので、これからもある程度は継続していくのでしょうが、実際には、大きな概念のモデルチェンジが行われることでしょう。
これは物理学における古典力学と量子力学的な関係に近いのかもしれません。こうした例からも「分かり易いモデル」というのはそれだけで大きな「盲点」を生み出しやすいということが分かりますね。通常医学といわれるものでも大きな変革を迎えつつあるのかもしれません。