2021年03月12日

細胞内部の様子、混雑具合や酵素反応など

 先月から開始した基礎医学の勉強会のテーマは生化学・栄養学なのですが、とりわけ今は「解糖系」からのエネルギー代謝を学んでいます。

 ここで気になるのが、解糖系の各反応が、どうして整然と進行するのかということ。おそらく正統とされる考えでは、確率論的に一定の割合で、各々の段階の酵素と遭遇するからという説明なのでしょうが、本当にそんなにうまくいくものなのでしょうか。(進化の問題でもネオダーウィニズムの主張に同様の疑問を感じます。たまたま生まれたアザラシの子孫がたまたま海へと戻っていった的な…)

 こうした説明の一つとして、細胞内骨格が、酵素の反応順序に絡んでいるという説もあります。つまり求められる代謝の反応順に酵素が線維によって一直線に並んでいれば、整然と反応が進行するというものです。これは最近、ファッシアや生体マトリックスに関心を持っているので、個人的には非常に納得できる考えなのですが、一般的にはトンデモということになるのでしょう。

 また細胞内も、いわゆる教科書的な説明図では、整然と細胞内小器官が内蔵されているのですが、実際は満員電車顔負けの混雑状態だということが知られています。すると酵素などタンパク質の作用を考えても、それらのいわば部品同士による相互作用を無視するような考えは現実的ではない、ということが分かります。
 しかし、実際にはテキストではそうした説明はされていないので、これも釈然としません。そのために細胞内部がいかにタンパク質がせめぎ合っているか、「模式的に書かれた図」をどこかで見たような気がしたので、先週からずっと蔵書群を捜索していたのですが、それが先日やっと発見できました。

 金子邦彦先生の『生命とは何か』のP15にやっと、その小さな図を見つけ出すことが出来ました。(この捜索はずいぶん時間がかかりましたが、その過程でたくさんの忘却の彼方にあった本を見つけることもできました)

 通常の細胞の様子とは全く違い、まさに満員電車状態でタンパク質やDNAが充てんされた混雑状態の図は、まさに我々が「常識」と普段考えているものとの大きな「溝」がありました。やはり実際の生体というものは、線形思考でとらえるにはあまりに複雑であるということを強く見せつけられたようでした。

 基本的な概念ほど、再考するとそこに大きな常識との「溝」があるものです。日々の臨床から、こうした意外な気づきをひとつでも多く掬いとりながら、診療していきたいとあらためて強く感じました。



生命とは何か―複雑系生命科学へ
金子 邦彦
東京大学出版会
2009-02-01




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