2021年09月24日

ルルドの泉について

 先日、患者さんと鍼灸治療中に、イギリスにはお化けがよく出るけど、フランスは奇跡(や奇蹟)がおきますね〜という話をしていて、そういえば、と昔の記事を思い出し引っ張り出してみました。ルルドの泉ついての記事です。この手の情報としては、それでも結構新情報で、いまでも新鮮味があると思います。
 どうぞ!

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はじめに

 1858年、フランス南部ピレネー山脈麓の町ルルド(Lourdes)は、少女ベルナデッタ(Bernadette)がマリアの降臨を告げて以来、癒しの町として世界的に名高い。シーズン中には、フランス国内でパリに次ぐ宿泊者数となり、小さな田舎町としては似つかわしくないほどの賑わいを見せる。敬虔なカトリック教徒にとって、重要な聖地であるのは言うまでもないが、むしろわが国においては、癒しの泉湧く地として有名である。この地に多くの人々が関心を持つ奇跡は、大きく2つの意義に分けられるかと思う。一つは、一人の少女に聖母マリアがこの地に姿を現したことの意味、つまり何故ベルナデッタであったのかということを含めた宗教的な意義である。もう一つは、聖母マリア出現の際に告げられた泉から湧出した水による、奇跡的治癒の数々に関してである。私自身は、特定の宗教を持つ者ではなく、また、医師であるということから、後者の意義に関して、特に強い関心があった。そしてこの度、2003年と2005年の2回にわたってルルドを訪れ、かつ奇跡的治癒を認定する奇跡認定医のパトリック・テリエ先生(Decteur Patrick THEILLIER)に2度にわたってお話を伺うことができた。

 

聖地ルルドと奇跡的治癒

 1858211日、少女ベルナデッタの前に聖母マリアが出現したことから一連のエピソードは始まる。当初は、ベルナデッタ自身、聖母マリアであるという認識はなく「ご婦人」という認識であったという。その後225日の9回目の出現のとき、泉の位置が示され、「ルルドの泉」の湧出となる。はじめ泥水であった泉はこんこんと湧出するうちに、みるみる澄んでいったという。そしてこの日のうちにくみ上げられた水により、すでに最初の治癒例が確認されている。そして325日の16回目の出現時に、この婦人は「無原罪の宿り」と名乗ることとなる。はじめはベルナデッタ自身もそれが聖母マリアを示すものとは知らず、町の神父の指摘により知ることになった、ということである。これ以後、今日に至るまで奇跡的治癒は続き、世紀の変わり目までに二百万人もの患者が訪れ、うち6784例の治癒が記録され、バチカンの設定した厳密な基準を満たす「奇跡的な治癒」は66名を数える。しかし、これらはあくまでも申告されたものであり、自覚的にも他覚的にも治癒していながらここに記されていない(申告していない)人数はさらに多くいると考えられる。

 

ルルド探訪

ルルドへは、パリから空路であれば、ルルドタルベ空港ないしはポー空港からタクシーを使用して行くことができる。陸路でも、在来線を乗り継ぎ、ルルド駅へ行くことができる。町の中心は言うまでもなく、大聖堂であり、その周辺には観光客を目当てにたくさんの土産物屋が軒を連ねる。古くは、防衛の要衝であった地であるだけに、威厳ある要塞が町を眺める。大聖堂を背に右手には、ゴルゴダの丘を模した「十字架の道」があり、イエス受難の像が山道を登りながら見ることができる。そして左手には川が流れ、この川と大聖堂の間に泉の湧出する洞窟がある。ここが「ルルドの泉」である。泉の湧き出るところが実際に見ることができ、そこから出た水は少し離れた水のみ場で自由に飲むことができる。水は無料で提供されており、シーズンにはたくさんの人たちが、ペットボトルや水筒を手に列を成す。洞窟からさらに奥に進むと沐浴場があり、シーズン中であれば、車椅子やストレッチャーの方でいっぱいになる。敷地内にはこの他、ルルドの歴史を説明する映画館や、関連する書籍を販売する書店、医療事務局もこの敷地もある。

 

奇跡認定医テリエ先生

医療事務局には「奇跡」を認定する医師パトリック・テリエ先生がいる。先生とはこれまで2度お会いしているが、一度目の訪問(200311月)では、一般的な解説から、奇蹟の認定基準に関して教えて頂いた。このとき先生は、信仰がその治癒の中心的役割を示すと強調されていた。同時に他の信仰をもつ者であっても、生命の連続性を認識している人であれば治癒しうる、というお話は非常に興味深かった。「水」という物質にのみ効果を帰する見方ではなく、その背景としてのスピリチュアリティーにこそ重点を置くべきであるという見方であり、大いに感銘を受けた。

二度目(20056月)は、一対一の個人的会談という形で、お時間を取って頂いた。そのために、なかなかお聞きすることができないお話もうかがうことができた。それは、ホメオパスでもある医師としての先生にとって、ここでの治癒を先生自身どのようにとらえているのか、ということである。医師として、治癒困難な疾病が実際に治ることに対する見解、さらには、ホメオパシーの効果を、身を持って経験している医師として、治癒と水の持つエネルギー、そしてスピリチュアリティーとの関連に対する見解、などである。また先生は、多発性硬化症などの難病の治癒メカニズムにも非常に興味をもっておられて、生化学や遺伝子などの理論を駆使して同僚の医師と共著の著作も出版されている。信仰との関連も重要であるが、治癒することそれ自体にも重要な意味があり、その点もさらに研究が進むべきである、と強調されていたことも、印象的であった。そしてルルドの奇跡においては、水の果たす役割はきわめて大きいのではないだろうか、ともお話されていた。

 

ルルドの奇跡とは

 信仰に基づく「スピリチュアリティー」と、それを伝達する媒体としての「水」、そしてその作用点ともいえる「自然治癒力」。この三者の連携から織り成されるものが「ルルドの奇跡」と言われるものなのだろう。そこには単純な還元主義では解決されえない問題が多く横たわるが、「奇跡」が我々に見せる魅力は限りない。それは、ルルドの奇跡の元来もつ力に加え、多数の巡礼者をはじめとした訪問者の祈りによるところも少なくないように思う。聖地ルルドから、我々、統合医療を目指すものが得ることができるものは限りなく多い。「統合医療」の更なる発展を考えるとき、ここに多くのヒントがあるような気がする。




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