2022年01月04日

統合医療診療の実際(2)がん患者さんへの対応

 60代女性、乳がんの術後で化学療法中のAさんです。発症前からあまり「肉類」は食べなかったとのことで、ごはん・野菜を中心とした食事だったようです。術後も、肉は体に悪いのではないかと思い、避けていたということでした。

 化学療法による体調の不良と、現状に対しての不安や医療への不信など、精神的ストレスを強く抱えている状態で受診されました。それでも一時期は相当のストレスだったようで、心理カウンセリングにてかなり改善の方向には進んでいるようでしたが、とにかく心身ともにエネルギーが不足しているといった印象でした。

 こうした方には当院では、まず「食事記録」をとって頂きます。どのようなものを毎日食べているかを、詳細にチェックします。
 これによりAさんは、肉類をはじめとしたタンパク質の摂取が極めて少ないことが分かりました。であれば、当然、糖質過多もあるわけです。

 一般に肉類を以前からあまり食べ慣れていない方にとっては、タンパク質をとれ、といってもなかなか急には摂取できないのが現状です。

 しかし、そうした方でも、卵や魚などは、比較的摂取しやすいようです。なかでもアミノ酸スコアを考慮すると、卵はかなり有効です。1日に2〜3個いけるとかなり体調改善が実感されてきます(オムレツなどが食べやすいようです)。

 それでも十分なタンパク摂取は難しいという方も少なくありません。こうした場合、液体でのプロテイン摂取をおすすめします。いわゆる「プロテイン」です。最近は、かなり味のバリエーションも多く、各社特徴が様々あるのですが、基本的には、いくつか試してみて、飲めそうなものを選択してもらうというのが良いようです。(もっと栄養状態が悪いようであれば当然「アミノ酸」です。これなら吸収にあたって負担がありません)

 無理に食べていたご飯(糖質)の量を少し減らしてでも、タンパク質摂取を心掛けると、体調はめきめき改善することは少なくありません。プロテインで慣れてきたら、卵などの食品でのタンパク摂取にも抵抗がなくなるようです。逆に、こちらにエネルギーがない時はたんぱくを摂取しようという気になりません。つまり、摂取する側の生命エネルギーの強度にしたがって、摂取タンパク量は規定されてしまうわけです。こうした関係を、私はエネルギーバランスの法則と呼んでおります。(法則といっても当然経験則なのですが…)

 また、これと同時に、ビタミン・ミネラルの摂取も必要です。当院では十分なサプリメントの摂取も併せておすすめします。これまでの食事内容から、エネルギー代謝に不可欠なビタミンB群の不足が多く認められ、これが十分でないとせっかく摂取したタンパクも有効利用できないわけです(特にビタミンB6)。

 こうした栄養の補給により、これまでの化学療法などの治療の続行を躊躇っていた方でも、前向きに治療続行が可能になってきます。
 A さんも、こうした食事内容の改善によって力がついてきたということで、現代医療との併用に、日々前向きに取り組まれています。

 こうしてAさんは、タンパク質の意図的な増量による、栄養状態の改善により、抑うつ気分が解消され、現状の治療に対しても前向きに取り組めるようになってきました。

 表現しがたい全身の不快感や、落ち込みの解消により、今度は、具体的な体の他の不調が現れます。
 頸や肩の痛み・コリ、背中の痛み、腰痛など、局所的な症状です。身体としては、言葉で表現することができない状態から、はっきりと表現できる状況へと変化していったとみることができるでしょう。(表現できるようになるだけでも大きな進歩です。一般に医療難民の方は多くが表現困難な状態で、医師患者双方にとっての解決困難さの大本といってもよいでしょう)


 こうした症状の時には、当院ではまず鍼灸をお勧めします。特に、当院の特徴としては「刺絡」を用いるというところです。
 出血を伴う手技ですので、行われているところも少ない技法で、強い治療と思われて敬遠されている面もありますが、実際はそうではありません。施術に伴う出血量も、いわゆる通常の採血量よりも少ないですし、治療の強さを加減することで、幅広い不調に対応することもできます。
 また、この治療の適応でない状態であれば、通常の細い針による鍼灸や、皮膚を刺すことのない「てい鍼」なども併用します。腹部の調整としては、このてい鍼を用いた腹部打鍼を通常、行っています。(さらにはファシア組織の重積やひきつれが原因と考えられる場合はエコー下ハイドロリリースなども行います)


 Aさんに対しても、栄養状態の十分な改善を確認してから、痛みやコリの場所に加え、「カッサ」を用いて瘀血のある場所(痧点)をあぶりだして(こすりだして)それらに少量の刺絡を施術します。
 これによりコリや痛みの改善のみならず、脊椎近傍の静脈(バトソン静脈叢)の血流改善をはかることで、腹部内臓に出入りする交感神経の異常な刺激を調節することができると考えています。
 またそうした神経の走行を伴っての、ファッシア(膜)の異常な緊張も緩和できるので、内臓に良い影響を与えられるという治療です。ちなみに刺絡によってとれる瘀血は、このファシア由来と考えております(ブログ内・「臨床ファシア瘀血学」参照)

 こうした治療により、Aさんの首や背部の痛みは改善され、自覚症状が改善されるだけではなく、内臓の状態、ひいては全身の免疫状態をも、改善に導くことも可能になると考えます。
 また刺絡は主に背部を中心に治療をしていますが、腹部へのアプローチとしては、てい鍼を用いて調整を行い、身体の前面と後面の両面から、内臓を含めた全身へと栄養を及ぼす治療を行っています。(また瘀血が発生しやすい頸部へのアプローチとしては上咽頭治療EATも並行して行うことがあります)

 Aさんは現在も、栄養状態の改善に引き続き、こうした刺絡療法を中心とした鍼灸治療を継続しておられ、化学療法の併用と再発防止に努めていらっしゃいます。


(なお本例は、年齢性別など複数のエピソードを融合させた典型例ですので、特定の個人のエピソードを示すものではないことをお断りさせていただきます)


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