2022年07月18日

症例を通して「統合医療とは何か」をあらためて考える

 統合医療とは何か、ということをあらためて考えさせられることが、ここ最近、私の周囲で生じていることもあり、女性特有の症状の対応例の再録に、大幅に今日の視点からコメントを書き足しました。統合医療とは何かという視点で、お読みいただけましたら幸いです。


 50代女性Dさん、冷えのぼせ、動悸、不眠、イライラ感、などの更年期障害を主訴に来院されました。
 当院受診前も、同症状にて漢方専門クリニックにて漢方処方(加味逍遙散・当帰芍薬散・抑肝散・酸棗仁湯等)、ならびに鍼灸院にて鍼灸治療を継続していたが、症状の改善が認められないため、当院を来院されました。
(いわゆる代替医療・伝統医療専門の医療機関は単体の方法論へのこだわりも強く、自らの方法論に良くも悪くもこだわる傾向が強いように感じます。ある種の症状には漢方が良くても、ある種の症状には分子栄養的アプローチが有効であることは珍しくありません。補完関係は現代医療との関係のみならず、代替医療・伝統医療の間にも存在することを強く実感しております)

 まずは栄養状態のチェック希望でしたので、食事内容の記録表に加え、採血検査にてビタミン・ミネラルの栄養チェックを行いました。
(当院では普段の食事内容を記録して頂くことを基本にしています。メモ程度であってもおおよその傾向は理解できるものです)

 結果から、鉄・亜鉛・ビタミンD等の栄養素が少なく、主訴との関連も強く示唆されたため、サプリメントにて補充をおすすめしました。(私自身も東洋医学出身なので気持ちはわかるのですが、やはり現代の多様な症状に的確に対応するには漢方処方だけでは不足であると感じています。こう書くと漢方の勉強が足らないからだとお叱り受けますが<既にこれまでも師匠からたくさん受けておりましたが…>20年近くこの形態の診療を継続して、間違いなく断言できます)

 時に困っていた動悸に関しては、循環器専門の他院にて既に精査されていましたが、特に問題なしとのことでしたので、コエンザイムQ10(還元型)を通常量より増量して処方しました。(こうした増量分もかなり経験によって決定しています。一律に決まらないことを攻撃する向きもありますが、やはり現実的には一例一例異なる、としか言いようがないですね…またコエンザイムQ10を減少させる薬剤との併用には大いに注意したいところです)

 さらに食事内容でも、タンパク質の摂取が少なかったので、改善するよう指導しましたが、なかなか増量できないということでしたので、プロテインでの摂取をおすすめしました。なお液体タンパクの摂取に伴い、カルシウムの補充は非常に重要です。(ここもご批判の多いところですが、普通に食べれるようなら卵・肉・魚としてのタンパク摂取が優先されるのはいうまでもありません。どうしても食べられないという方向けのプロテインということです)

 これらの栄養補充、さらには食事内容の改善に積極的に取り組まれたことにより、冷えのぼせ、動悸、イライラ感が改善され、自覚的にかなり元気も出てきたようでした。とくに動悸に関しては、心臓の病気ではないかと精査してからも心配が続いていたことから、コエンザイムをはじめとした栄養が原因だったこともわかり、たいへん喜ばれていました。
(気血の流れの調整という視点がやはり漢方の中心といえます。これに対してサプリメントは文字通り「補充」。不足量が圧倒的な場合、やはり直接補充が効果的であるのはいうまでもありません。確かに「補気」「補血」の概念はありますが、とりわけ物質としての「血」が不足している場合、当帰芍薬散や四物湯のような補血剤においてもある程度の改善が認められるのは事実ですが、鉄補給がよりスムースに症状改善に導くことは言うまでもないでしょう)


 しかし、数回の診療のなかで問診を進めていくと、家庭内、とくに夫への不満が強くあるようで、それによる機嫌の悪さから、症状の悪化が始まったようでした。従来、エアロビなど体を激しく動かす運動が好きで、これによりストレスの発散を行っていましたが、コロナ禍において、発散も十分にできなかったことが今回の症状悪化の主な原因と推測されました。
(やはり症状の基底には精神的な問題が存在することは少なくありません。というよりない方が珍しいでしょう。この辺りはオルゴンエネルギーを仮定したライヒの性格類型や、ユングの2態度と4機能で分けたタイプ論など、リビドーの放散方向なども考慮していくとより深く考察されてくるのかもしれません。こうしたエネルギー的な対応策としてはやはりホメオパシーの有効性を強く感じます)


 こうしたベースがあることから、再度、増悪してしまうことも考えられ、加えて、睡眠状態の改善は今一つだったこともあり、ホメオパシーをおすすめしたところ、大変興味あるということだったので、レメディを試してみることになりました。

 問診内容と症状の経過などから、レパートリゼーション(レメディ選択)を施行し、ヨーロッパコウイカ由来のSepia30Cを選択し、1日1粒3日間、連続投与しました。
(最近は、他の代替医療との組み合わせでレメディを用いることが少なくないので、ポリクレストの大まかな選択のみで十分な効果を実感しています)


 これにより、毎日の気持ちがとても楽になり、家族への対応もイライラせずにできるようになり、体調全部が良くなったような感じと表現されていました。また睡眠状態も著明に改善し、中途覚醒、早朝覚醒がなくなり、熟眠感を得られるようになったとのことでした。(睡眠の評価は極めて重要です。あらゆる効果測定が良くても睡眠における改善がなければ
その根底は未だ未解決ともいえると考えています。それゆえに睡眠状態の問診は詳細に行っております)

 更年期女性の諸症状に対しては、漢方や鍼灸といった東洋医学的な方法論が一般的ですが、この例にもあるように栄養(とくに蛋白やミネラル)の不足が、実は大きな原因となっていることも少なくありません。
 また、治療者側の東洋医学への愛着が、かえってサプリメントなどの栄養補充アプローチへのアクセスに待ったをかけてしまっているケースも、現代の日本では少なくないように感じます。
(実は統合医療における現状の大きな問題の一つと考えています。一つの療法にほれ込んで「統合医療」に入る方も少なくないので、それが悪いということはないのですが、やはりその他のものを正しく評価し受け入れるという姿勢が、統合医療には求められているように思います)


 漢方に関しては20年ほど前に、私が漢方外来を開始した時に感じたような、医師による漢方や東洋医学への偏見などはほぼ消失しているように思いますが、その他の代替医療(例えばホメオパシーなど)に対してはまだまだの状況です。(昔話になりますが、漢方を処方しているというだけで某医局では相当に虐げられたものです…)
 とりわけ欧米諸国でのホメオパシーの復権にもかかわらず、わが国では医師の偏見と無理解はまだまだ強いと言わざるを得ません。(私の知る範囲でも、漢方と鍼灸への無理解を嘆きながらもホメオパシーはただのプラセボと断じている方もいるくらいですので…。人というのは手前勝手なものです)

 どういう治療法を好むか、各人による考えは様々です。いいものはなんでも使うという発言もあり、まさにその通りなのですが、その治療法を本当に理解しているか、その理解度もまた大きく影響するわけです。
(この辺りはその違いを説明するのが本当に難しく、いわゆる「折衷」と「多元」の根本的な相違点ということになります。いい加減に「何でもいいよ!」ではありません、「吟味して選択する」という責任ある姿勢が大切なのです。こうした姿勢が貫けないとインチキやカルトの罠にはまってしまうのかもしれません。何にもまして統合医療にはバランス感覚が重要であると思っています)


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