2023年05月06日

臨床現場の統合医療(2) 考える身体、変わりうる身体

  臨床現場の統合医療の2回目です。これまでの診療の様子の紹介を、現段階においてアップデートして書いていきます。医療において絶対というのは、なかなか難しいという話題です。思想、思考というのはときに大きな障壁にもなりうるものです。

 60代女性、乳がんの術後で化学療法中のAさんです。発症前からあまり「肉類」は食べなかったとのことで、ごはん・野菜を中心とした食事だったようです。術後も、肉は体に悪いのではないかと思い、避けていたということでした。腸内環境を考える中で、過度にタンパク質とりわけ動物性たんぱくを制限する方は少なくないように思います。自然医療的な視点では、多くの場合、そうした指導がされることも多く、治療全体のバランスを考えたとき多くの問題を投げかけています。

 Aさんもこうした状況で、化学療法による体調の不良と、現状に対しての不安や医療への不信など、精神的ストレスを強く抱えている状態で受診されました。
 それでも一時期は相当のストレスだったようで、心理カウンセリングにてかなり改善の方向には進んでいるようでしたが、とにかく心身ともにエネルギーが不足しているといった印象でした。


 こうした方には、まず「食事記録」をとって頂きます。どのようなものを毎日食べているかを、詳細にチェックします。これによりAさんは、肉類をはじめとしたタンパク質の摂取が極めて少ないことが分かりました。であれば、当然、糖質過多もあるわけです。
 一般に肉類を以前からあまり食べ慣れていない方にとっては、タンパク質をとれといってもなかなか急には摂取できないのが現状です。また、考え方としても肉類を摂取するということが受け入れられない状態です。確かに身体の酸化を進めてしまうという面はありますが、免疫力の根底を形成するアミノ酸摂取を阻んでしまっては元も子もありません。こうした状態の考え方のバランスは、本当に難しいところです。

 しかし、肉類の摂取に抵抗がある方でも、卵や魚などは、比較的摂取しやすいようです。なかでもアミノ酸スコアを考慮すると、卵はかなり有効です。1日に2〜3個いけるとかなり体調改善が実感されてきます。とりわけオムレツなどが食べやすいようです。
 それでも実際には、十分なタンパク摂取は難しいという方も少なくありません。こうした場合、液体でのプロテイン摂取をおすすめすることもあります。いわゆる「プロテイン」です。最近は、かなり味のバリエーションも多く、各社特徴が様々あるのですが、基本的には、いくつか試してみて、飲めそうなものを選択してもらうというのが良いようです。当然、普通に食事から摂取するのがいいわけですが、ほぼ食べられない場合は仕方ありません。

 無理に食べていたご飯(糖質)の量を少し減らしてでも、タンパク質摂取を心掛けると、体調はめきめき改善することは少なくありません。プロテインで慣れてきたら、卵などの食品でのタンパク摂取にも抵抗がなくなるようです。この辺りは、やはり慣れの要素が強いように感じます。私個人としては、エネルギーバランスの法則と呼んでいるのですが、自分のエネルギーに従って、食物のもつエネルギーを摂取することが出来るようです。当然、野菜よりは動物の方がエネルギーのレベルは高いと思われるので、それを食するだけのパワーがこちらにも必要というコトになります。「特異動的作用」として考えても良いのかもしれません。

 また、これと同時に、ビタミン・ミネラルの摂取も必要です。当院では十分なサプリメントの摂取も併せておすすめします。これまでの食事内容から、エネルギー代謝に不可欠なビタミンB群の不足が多く認められ、これが十分でないとせっかく摂取したタンパクも有効利用できないわけです。
 こうした栄養の補給で、これまでの化学療法などの治療の続行を躊躇っていた方でも、前向きに治療続行が可能になってきます。A さんも、力がついてきたということで、現代医療との併用に、日々前向きに取り組まれています。確かに食に関しては、好みが大きく作用しますが、一度精神的にも回復すると、こうした食の摂取にも前向きになる方は少なくありません。人は一度変わることで、それまでの思考の主体となった身体もかわり、考え方も変わりうるという例は少なくないように思うのです。
 ただし、これだからと言ってタンパク質ばかりという食事が推奨されるというわけではありません。毎日のお通じの状態などを考慮し、腸内環境の調整もまた重要です。腸内環境が免疫状態を左右するのも、また事実。大きな体調不良をかかえたときには、こうしたバランスについて抜本的に考え直す良い機会なのかもしれません。そうした意味では万人向けの理論というのは厳密には存在しえない、というjことでしょうね。


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