2025年07月13日

生体城郭学のまなざし(100名城から医療を考える) 1.根室半島チャシ跡群

ここから皆様に、統合医療の眼差しからみた100名城の旅をお届けしたいと思います。日本列島という地形に、何らかの目的(多くは敵対勢力への戦略的なもの)を持って建てられた城をめぐる中で、日々、何らかの要因(病因)にさらされ続ける生体へのヒントを読みといてみたいと考えています。

そしてその旅の終わりに、城郭という我々人間が構築した作品から、我々自身の健康増進のヒントを探る「生体城郭学」とも言える思考の枠組みを構築したいと思うのです。

それでは北辺の地から、生体城郭学の構築の道のりを始めることにしましょう。

 

 

100名城を巡る旅、その始まりとして、あるいは終わりとして、多くの城好きの前に立ちはだかる「最果ての城」。それが、ここ根室半島チャシ跡群です。

私がこの地を訪れたのは、まだ夏の気配が残る平成218月のこと。日本の東端に近いこの場所は、単に物理的な距離が遠いだけでなく、私たちの日常的な時間感覚や価値観からも遠く隔たった、一種の聖域のような空気をまとっていました。

 

「チャシ」とはアイヌ語で「柵で囲われた場所」を意味し、砦や祭祀場、見張り場など、多様な機能を持っていたと考えられています。石垣や天守といった、私たちが「城」と聞いて思い浮かべる要素はここにはありません。あるのは、大地を削り、盛り、堀を巡らせた、極めて素朴で、しかし根源的な「場」の力です。

オンネモトチャシに代表されるこれらの遺跡群は、自然の地形を巧みに利用し、最小限の人間の作為によって、聖と俗、内と外を分かつ空間を創り出しています。それはまるで、文明がその華美な装飾をまとう以前の、生命が持つ原初の防御形態を見るかのようでした。

 

こうしたチャシのあり方は、統合医療が目指す健康観とも深く響き合うような気がします。現代医療は、最新の医薬品や高度な手術といった、いわば「壮麗な天守」を次々と築き上げてきました。それらは確かに強力で、多くの命を救ってきました。しかし、私たちはその輝かしい成果に目を奪われるあまり、自分自身の身体という大地に、もともと備わっている素朴で根源的な力、すなわち「自然治癒力」という「チャシ」の存在を忘れがちではないでしょうか。

病気という外敵に対し、最新兵器で立ち向かうだけでなく、まずは自らの陣地である身体の土台を整え、内なる防御力を高める。睡眠をとり、栄養バランスの取れた食事を摂り、適度に身体を動かす。こうした当たり前の生活習慣こそが、私たちの身体に築くべき最も重要な「チャシ」ではないかと思うのです。

 

この地へのアクセスの悪さは、ある種の象徴性を帯びているかのようです。来訪当時は資料館の休館でスタンプを押せず、途方に暮れる人も多かったと聞きました。

目的地を前にしながら、たどり着けないもどかしさ。これは、難治性の疾患を抱え、様々な治療法を試しながらも、なかなか快方に向かわない患者さんの心境と重なるかのようです。根本的な治癒への道は、決して平坦ではありません。しかし、その遠い道のりを歩むプロセスそのものが、私たちに何かを教え、何らかの変容を促すのかもしれません。

安易な解決策を求めるのではなく、自らの足で、生活という荒野を歩き、自分だけの「チャシ」を見つけ、築き上げていく。セルフケアとは、まさにそうした地道な旅のようにも思われました。

 

チャシは、和人との緊張関係の中で、16世紀から18世紀にかけて多く築かれたとされます。異なる文化との接触が、自己のアイデンティティを再認識させ、新たな創造のエネルギーを生む。これもまた真理です。西洋医学という強力な文化と出会ったからこそ、私たちは、伝統医療や自分たちが本来持つ生命の知恵の価値を、改めて問い直すことができるという面もあるはずです。

根室の茫漠とした風景の中に佇むチャシ跡は、私たちに問いかけます。あなたの内なる大地は、健やかか。あなた自身の生命を守る「チャシ」は、確かにそこにあるか、と。この根源的な問いから、私たちの健康をめぐる旅は始まるのです。



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