2025年07月15日

生体城郭学のまなざし(100名城から医療を考える) 2.五稜郭

2.五稜郭

星形の稜堡式城郭、五稜郭。その幾何学的な美しさは、訪れる者を魅了します。しかし、この城の物語は、西洋の合理性と日本の現実が衝突した、一つの壮大な心身症のケーススタディのようでもあります。私が最初に訪れた平成215月、現在みられる箱館奉行所はまだ復元されておらず、その美しい星形は、どこか魂の宿らない骨格標本のようにも見えました。

この城の設計思想は、当時のヨーロッパにおける最新の軍事理論でした。死角をなくし、効率的な十字砲火を可能にするための、極めて合理的なデザインです。これは、現代の西洋医学が依拠する、科学的合理性やエビデンスに基づいたアプローチとよく似ています。

理論的には完璧なはずの治療計画、ガイドラインに沿った標準治療。しかし、現実は、常に理論通りには進みません。五稜郭もまた、予算不足から、当初計画されていた5基の半月堡(防御施設)のうち1基しか造られませんでした。完璧な設計図も、現実の制約の前には、不完全なものとならざるを得ない。

これは、理想的な治療が、患者さんの経済状況や家庭環境、あるいは副作用によって、計画変更を余儀なくされる臨床現場の日常そのものです。

 

さらに致命的だったのは、この西洋生まれの城郭システムに、日本的な要素を無造作に「統合」してしまったことです。ヨーロッパの稜堡式城郭では、郭内に高い建物を建て、敵からの格好の標的になることを避けるのが鉄則です。しかし、ここでは日本の慣習に従い、中央に立派な箱館奉行所を建て、ご丁寧に屋根の上には太鼓櫓まで設置してしまいました。その結果、新政府軍の艦砲射撃の絶好の的となり、あっけなく機能不全に陥ります。

優れた理論やパーツも、全体のシステムとの調和を欠けば、かえって弱点となる。これは、統合医療における極めて重要な教訓です。

様々な代替療法を、ただ闇雲に取り入れるだけでは、かえって心身のバランスを崩しかねません。それぞれの療法が、その人全体のシステムの中で、どのように機能し、相互作用するのか。その全体性(ホリスティック)な視点なくして、真の統合はあり得ないのです。

 

私たちのセルフケアにおいても、この五稜郭の失敗は示唆に富んでいます。テレビや雑誌で紹介される最新の健康法(西洋の最新理論)に飛びつく前に、まずは自分自身の身体という「風土」をよく知る必要があります。

自分の体質、生活リズム、何を食べると調子が良くなり、何をすると崩れるのか。その日本的な、あるいは個人的な身体感覚を無視して、外から来た理論だけを振り回しても、健康という「城」は守れません。大切なのは、外からの知恵と、内なる声との対話です。その対話の中から、自分だけのオーダーメイドの健康法、真に統合されたライフスタイルが生まれてくるのです。

 

五稜郭タワーから見下ろす星形は、今も変わらず美しい。しかしその美しさの裏にある、不協和音の物語に耳を澄ます時、私たちは、より深く、成熟した健康観へと導かれるのかもしれません。




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