2025年07月20日

生体城郭学のまなざし(100名城から医療を考える)6.盛岡城

6.盛岡城(岩手)

 

不来方(こずかた)の丘に、南部氏が三代40年の歳月をかけて築いた盛岡城。その名は盛り上がり栄える岡という、未来への希望に満ちた願いから名付けられました。しかし、この城の石垣は、築城主である南部氏の、決して平坦ではなかった道のりを、静かに物語っています。

 

築城を開始した南部信直は、いち早く豊臣秀吉に臣従することで、本領を安堵されます。時代の流れを読む、見事な政治判断です。

しかし、その決断が、旧来の秩序に不満を持つ勢力の反発を招き、「九戸政実の乱」という、凄惨な内乱を引き起こしてしまいました。良かれと思って選んだ道が、思わぬ副作用や、内なる葛藤を生み出す。これは、私たちが人生で下す、あらゆる決断に付きまとうパラドックスです。例えば、健康のために始めた厳しい食事制限が、かえって精神的なストレスとなり、別の不調を引き起こすこともあります。

 

何か新しいことを始める時、私たちは、未来への希望(盛岡)に目を向けがちですが、同時に、それによって失われるものや、変化に伴う痛み(九戸の乱)にも、覚悟を持って向き合う必要があります。

セルフケアとは、単に「良い」とされることを付け加える足し算だけでなく、時には、長年の悪しき習慣や、心地よい依存といった、自分の一部となっているものを手放す「引き算」でもあるのです。その痛みなくして、真の変容はあり得ません。

 

盛岡城は、会津若松城、白河小峰城と並び「東北三名城」と称されます。しかし、その評価とは裏腹に、城内は、雪に埋もれた冬の日に訪れると、驚くほど静寂に包まれていました。きらびやかな評価や名声(外的評価)と、その内側にある、静かで、本質的な空間(内的現実)。そのギャップに、私は深く惹かれます。

現代社会は、SNSの「いいね」の数に代表されるように、常に他者からの評価を求めがちです。しかし、真の心の平和や健康は、そうした外的な評価に左右されるものではありません。むしろ、誰にも評価されなくとも、自分自身の内なる声に耳を澄まし、静かに自分と向き合う時間の中にこそ、その源泉はあるのではないでしょうか。

 

雪の積もった御台所屋敷跡の広場で、壮大な花崗岩の石垣を見上げながら、私は、時の流れと、人の営みの儚さ、そして、それでもなお、何かを築き上げようとする人間の意志の力強さに、思いを馳せていました。凍てつく空気の中で、熱いじゃじゃ麺をすする。その身体の芯から温まる感覚は、どんな理論にも勝る、確かな「生」の実感でした。



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