2025年07月23日
生体城郭学のまなざし(100名城から医療を考える)8.仙台城
8.仙台城(宮城)
青葉山の上に、伊達政宗の野心と美意識が結晶した仙台城。この城のユニークな点は、天守を持たなかったことです。その代わりに、本丸の崖に、清水の舞台と同じ「懸造(かけづくり)」の「眺エイ閣」という、壮麗な建物を築きました。眼下に広がる城下と、その向こうの太平洋を一望できる、絶好のビューポイントです。
なぜ、政宗は、権力の象徴である天守を建てなかったのか。一説には、徳川幕府への遠慮があったとも言われます。しかし、私は、そこに彼の、より深い思想を見て取りたいと思います。天守という、垂直に天を突く、閉鎖的で権威的な象徴ではなく、「眺エイ閣」という、水平に世界へと開かれた、開放的な空間を、自らの城の中心に据えた。それは、世界と繋がり、交流し、そこから新たな価値を生み出していこうとする、政宗のグローバルな視野と、進取の気性の現れではなかったでしょうか。
これは、現代の医療が向かうべき方向性を示唆しています。医師が、その専門知識という「天守」に閉じこもり、患者さんを上から見下ろすような、権威的な関係性ではなく、患者さんと同じ地平に立ち、その人の生きる世界(生活、価値観、人生の物語)を共に「眺める」ような、パートナーシップへと移行していくこと。それが、統合医療が目指す、新しい医療の姿だと思うのです。
病気を治すこと(機能)だけが目的ではありません。その先にある、その人らしい豊かな人生(眺望)を、共に創り上げていくこと。そのために、「眺エイ閣」のような、開かれた対話の空間が必要なのです。
この城の石垣には、様々な年代のものが混在しており、まるで地層のように、その改修の歴史を物語っています。特に、震災で崩落した石垣が、今、再び積み直されている様子は、破壊と再生のサイクルを象徴しているようです。
私たちの身体も、常に古い細胞が壊れ、新しい細胞が生まれるという、ダイナミックな平衡状態にあります。そして、病気や怪我という「崩落」を経験することで、私たちは、より強く、賢明な自己へと「再建」される可能性を秘めているのです。これをレジリエンス(回復力)と呼びますが、セルフケアの目的の一つは、この内なる回復力を高めることにあります。
仙台城から広がる眺望は、私たちに教えてくれます。自分の小さな世界に閉じこもるのではなく、視野を広げ、世界と繋がること。そして、過去の傷跡を、未来への礎として、自らの物語を再建していくこと。
その壮大な視座こそが、私たちを、日々の小さな悩みから解放し、健やかな生き方へと導いてくれるのです。