2025年08月08日

生体城郭学のまなざし(100名城から医療を考える) 21.江戸城

21.江戸城(東京)

 

日本の中心、そして、私の日常の舞台でもある、江戸城。しかし、この100名城巡りを始めるまで、私は、この巨大な城郭の、本当の姿を知りませんでした。スタンプを押すために、初めて、大手門から本丸へと足を踏み入れ、天守台の上に立った時、その圧倒的なスケールと、そこに込められた、徳川の威光に、改めて言葉を失いました。

 

この城の歴史は、徳川三代、家康、秀忠、家光という、祖父、父、子の、複雑な心理ドラマそのものです。特に、天守を巡る物語は、象徴的です。

家康が築いた、初代天守。それを、息子の秀忠が、父の死後、わずか一年で取り壊し、新たな天守を築きます。そして、さらに、孫の家光が、その秀忠の天守を、またもや、取り壊してしまう。公式には、御殿拡張のため、などと説明されますが、その裏には、父・秀忠への対抗心と、祖父・家康への、異常なまでの思慕を抱いていた、家光の、屈折した心理が、透けて見えます。

 

城という、巨大な物理的構造物が、一人の人間の、内面的な葛藤や、家族関係の力学を、これほどまでに、雄弁に物語っている例は、他にありません。これは、心身相関の、最も壮大な実例と言えるでしょう。

私たちの身体に現れる、様々な症状。例えば、原因不明の腹痛や、頭痛。その背景に、職場での人間関係のストレスや、家庭内の未解決の感情が、隠されていることは、決して珍しくありません。身体は、言葉にならない、心の叫びを、症状という形で、表現しているのです。

統合医療の診察では、単に、症状を薬で抑えるだけでなく、その症状が、患者さんの人生の文脈の中で、何を伝えようとしているのか、その「物語」を、共に、読み解いていくことを、大切にします。家光の天守建て替えの、真の動機を探るように。

 

地下鉄丸ノ内線が、四ツ谷駅で、一瞬、地上に顔を出すのは、そこが、かつての江戸城の外堀の底だからです。私たちの日常の風景の下には、このような、巨大な歴史の構造が、今も、生きている。

これもまた、私たちの意識の構造と、似ています。私たちの、日々の、意識的な思考や、行動(地上)の下には、自分でも気づいていない、広大な無意識や、集合的な記憶の層(地下)が、横たわっています。そして、時に、その地下からの突き上げが、私たちの人生を、大きく揺さぶることがあります。

 

セルフケアとは、この、自分自身の内なる「江戸城」の、縄張りを、知ることでもあります。どこに、堅固な「石垣」(自分の強み)があり、どこに、埋め立てられた「堀」(見たくない過去)があるのか。その全体像を、深く、理解すること。その上で、自分という、かけがえのない城の、賢明な「城主」となること。

東京の真ん中に、静かに広がる、この巨大な史跡は、私たち、一人ひとりの中に存在する、内なる宇宙の、探求へと、誘っているのです。

 



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