2025年08月14日

縮退しない生き方 〜統合医療的縮退論〜 (3)

【食事法の縮退】からの脱却:あなたの体は「理論」ではなく「生命」である

 

「糖質制限こそが健康の鍵だ」「いや、マクロビオティックが一番だ」「ファスティングで人生が変わる」…。現代は、健康に関する情報、特に食事法が溢れかえっています。そして私たちは、どれか一つの「正解」を見つけようと必死になり、その理論に自らを当てはめようとします。これが「食事法の縮退」です。特定のルールに思考と食生活が縛り付けられ、かえって心身のバランスを崩してしまう皮肉な現実が、多くの人々に起こっています。

 

なぜ「食事法の縮退」は危険なのか?

 

どんな食事法にも、それが生まれた背景と理論的なメリットがあります。糖質制限は血糖値の安定に、マクロビは身土不二の考え方による調和に、ファスティングは自己修復機能の活性化に、それぞれ寄与するでしょう。問題は、その理論を「絶対化」し、自分自身の身体からのフィードバックを無視してしまうことです。

 

私たちの身体は、教科書通りの化学反応だけで動いているわけではありません。年齢、性別、遺伝的背景、腸内環境、活動量、ストレスレベル、そして季節や気候といった無数の要因によって、刻一刻と変化し続ける複雑な生命システムです。ある人には劇的な効果をもたらした食事法が、別の人には全く合わない、あるいは害になることさえあります。例えば、エネルギー消費の激しい若者が厳格なカロリー制限をすれば栄養失調になりますし、消化力の弱い人が玄米菜食にこだわれば、かえって胃腸を疲弊させてしまいます。

 

「食事法の縮退」に陥ると、私たちは「〇〇を食べてはいけない」という禁止事項に思考を支配され、食べる楽しみを失い、罪悪感に苛まれるようになります。食事がストレスの原因になるという本末転倒な事態です。また、多様な食材から得られるはずの微量栄養素が欠乏し、長期的に見ると新たな不調の原因を作り出すリスクさえあるのです。

 

「縮退しない」豊かな食生活を取り戻すために

 

本当の意味で健康的な食事とは、理論に自分を合わせるのではなく、自分の身体に食事を合わせる、しなやかな姿勢から生まれます。

 

多様性の原則に立ち返る:「〇〇だけ」や「〇〇抜き」といった極端な方法ではなく、「まごわやさしい(豆・ごま・わかめ・野菜・魚・しいたけ・いも)」に代表されるような、多様な食材をバランス良く摂ることを基本にしましょう。特に、旬の食材は栄養価が高く、その季節に身体が必要とするものを補ってくれます。

 

自分の「体感覚」を磨く:食事をした後、自分の身体がどう感じているかに注意を向けてみてください。「お腹が張る」「身体が温まる」「頭がスッキリする」「眠くなる」。この微細な感覚こそ、あなただけのオーダーメイド食事法を教えてくれる最高の教師です。理論はあくまで参考情報。最終的な判断基準は、あなたの「体感覚」に置くべきです。

 

食事法を「ツール」として使いこなす:様々な食事法を「絶対的な教義」ではなく、「便利な道具箱」として捉えましょう。例えば、「今日は少し食べ過ぎたから、明日は消化に良い和食中心にしよう」「最近疲れが溜まっているから、タンパク質を意識して摂ろう」「週末にプチファスティングで内臓を休ませてみよう」というように、状況に応じてツールを柔軟に使い分けるのです。

 

あなたの身体は、世界でたった一つのユニークな存在です。画一的な理論に押し込めるのではなく、その声に耳を澄まし、対話するように食事を選ぶ。それこそが、「食事法の縮退」から抜け出し、真の健康と食べる喜びを取り戻すための道なのです。

 



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