2025年08月15日

縮退しない生き方 〜統合医療的縮退論〜 (4)

【原因論の縮退】からの脱却:不調のサインは「多次元パズル」である

 

「この頭痛は、きっとストレスのせいだ」「アトピーが治らないのは、遺伝だから仕方ない」「最近疲れやすいのは、もう年だから」。私たちは、心身に不調が現れた時、その原因を一つの分かりやすい理由に押し込めて、納得しようとする癖があります。これが「原因論の縮退」です。原因を一つに特定した瞬間、私たちは安心して思考を停止してしまいますが、その裏では、解決可能だったはずの真の根本原因を見過ごしているかもしれません。

 

なぜ「原因論の縮退」は危険なのか?

 

人間の身体は、一つの原因が一つの結果を生むような、単純な機械ではありません。統合医療の視点では、あらゆる症状は、様々な要因が複雑に絡み合った結果として現れる「氷山の一角」と捉えます。例えば、「頭痛」という一つの症状。その水面下には、ストレスだけでなく、首や肩の凝り(構造の問題)、特定の食物への遅延型アレルギー(食事の問題)、化学物質過敏症(環境の問題)、女性ホルモンの乱れ(内分泌の問題)、あるいは腸内環境の悪化(消化器の問題)といった、無数の可能性が隠れています。

 

「ストレスのせい」と片付けてしまうと、私たちはリラックス法を探すかもしれませんが、本当の原因が「毎朝食べているパンのグルテン」だったとしたら、頭痛は決して改善しません。「遺伝だから」と諦めれば、食事や生活習慣の改善によって症状をコントロールできる可能性を、自ら放棄することになります。

 

このように、原因論の縮退は、私たちを思考停止と諦めへと導き、根本的な解決から遠ざけてしまうのです。症状は、身体からの「何かがおかしいですよ」という悲鳴であり、メッセージです。そのメッセージを安易なレッテル貼りで無視してしまうのは、非常にもったいないことなのです。

 

「縮退しない」多角的な視点で原因を探る

 

不調の根本原因にたどり着くためには、探偵のように粘り強く、多角的な視点からアプローチする必要があります。

 

身体の各システムをチェックする:自分の不調が、どのシステムと関連している可能性があるかを考えてみましょう。

 

消化器系:腸内環境は?便通は正常か?リーキーガットの可能性は?

 

内分泌系:ホルモンバランスは?副腎疲労はないか?甲状腺機能は?

 

構造系:姿勢は悪くないか?噛み合わせは?身体の歪みはないか?

 

環境要因:重金属や化学物質の蓄積はないか?電磁波の影響は?

 

精神・心理面:抑圧された感情はないか?過去のトラウマは?

 

時系列で生活を振り返る:その症状がいつから始まったか、どんな時に悪化し、どんな時に和らぐかを詳細に記録してみましょう(ヘルス・ダイアリー)。食事、睡眠、仕事、人間関係、天候など、症状と生活の間に相関関係が見つかることがよくあります。これは、原因を探るための極めて重要な手がかりとなります。

 

専門家との対話を活用する:統合医療を実践する医師やセラピストは、まさにこの多次元パズルのピースを一緒に集めてくれる専門家です。血液検査のデータだけでなく、あなたの生活史や何気ない会話の中から、原因の糸口を見つけ出してくれます。一人で抱え込まず、専門家の視点を借りることも重要です。

 

原因論の縮退から抜け出すことは、時に面倒で、根気がいる作業かもしれません。しかし、その先には、対症療法では決して得られない、根本的な治癒への道が拓けています。あなたの身体が発する複雑なメッセージを、短絡的に解釈せず、敬意をもって丁寧に読み解いていく。その姿勢こそが、真の健康を取り戻すための第一歩なのです。

 



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