2025年08月17日

縮退しない生き方 〜統合医療的縮退論〜 (6)

【自己イメージの縮退】からの脱却:「私は〇〇病」という呪いを解くために

 

「はじめまして、アトピーの〇〇です」「うつ病を患っている者です」。私たちは、病名を告げられた瞬間から、無意識のうちにそのラベルを自分自身に貼り付け、アイデンティティの一部として語り始めます。これが「自己イメージの縮退」です。つまり、多面的で豊かな存在であるはずの「自分」が、「一人の患者」という単一のイメージに押し込められてしまう状態です。この縮退は、回復への道を阻む、強力な自己暗示、一種の呪いとなり得ます。

 

なぜ「自己イメージの縮退」は危険なのか?

 

言葉は、思考を形作り、現実に影響を与える力を持っています。私たちが「私は〇〇病だ」と繰り返し語り、そう思い込む時、脳と身体には何が起こるのでしょうか。

 

まず、思考と行動が「病気の枠」に制限されます。「アトピーだから、肌に良いことしかしちゃいけない」「うつ病だから、新しい挑戦は無理だ」というように、病気を理由にあらゆる可能性を自ら閉ざしてしまいます。行動範囲が狭まり、人との交流を避け、新しい経験から遠ざかる。その結果、人生の喜びや刺激が減り、ますます症状が悪化するという負のスパイラルに陥ります。病気が、快適ではあるものの成長のない「コンフォートゾーン」になってしまうのです。

 

次に、無意識が「病気である状態」を維持しようとします。私たちの心は、一貫性を保とうとする性質があります。「私は病人だ」という自己イメージが定着すると、無意識はそのイメージに合致するような証拠(症状の悪化、体調不良など)を探し始め、逆に健康になるような情報や行動(「少し調子が良いかも」という感覚など)を無視、あるいは過小評価するようになります。治癒に向かうことは、長年慣れ親しんだ自己イメージを裏切る行為のように感じられ、無意識の抵抗に遭うことさえあるのです。

 

さらに、周囲もあなたを「病人」として扱います。あなたが自分を病人として振る舞えば、家族や友人もあなたを「保護すべき弱い存在」として扱い始めます。過剰な心配や配慮は、一見優しさに見えますが、長期的にはあなたの自立心や回復力を奪い、「病人としての役割」を強化してしまう結果につながりかねません。

 

「縮退しない」多面的な自分を取り戻すために

 

この呪いを解き、自由で豊かな自己イメージを取り戻すためには、意識的な努力が必要です。

 

言葉遣いを変える:「私は〇〇病です」ではなく、「私は今、〇〇という症状を持っています」あるいは「〇〇という診断を受けています」と言い換えてみましょう。このわずかな違いが、「病気=自分自身」という一体化を切り離し、病気を客観的な「状態」として捉えることを助けます。病気はあなたの一部かもしれませんが、あなたの全てではありません。

 

「健康な部分」に光を当てる:どんなに重い症状があっても、あなたの中には必ず健康な部分、正常に機能している部分があります。例えば、肌に症状があっても、内臓は力強く働いているかもしれない。気分が落ち込んでいても、創造性やユーモアのセンスは失われていないかもしれません。日記などを活用し、自分の「できていること」「元気な部分」「感謝できること」を意識的に見つけ、そこに意識を集中させる練習をしましょう。

 

病気以外のアイデンティティを育てる:あなたは「患者」である前に、一人の人間です。親、子、友人、会社員、趣味人…。あなたが持つ多様な役割やアイデンティティを再確認し、それを意識的に育む時間を作りましょう。病気と関係のない活動に没頭する時間は、「病人」という自己イメージを相対化し、人生の豊かさを取り戻すための強力な処方箋となります。

 

自己イメージの縮退からの脱却は、病気と自分との間に健全な距離を作ることです。あなたは、病気という経験を通して学び、成長することさえできる、無限の可能性を秘めた存在です。そのことを思い出した時、回復への力強いエネルギーが、あなたの内側から湧き上がってくるはずです。



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