2025年08月19日
縮退しない生き方 〜統合医療的縮退論〜 (8)
【運動パターンの縮退】からの脱却:あなたの体は「多様な動き」を求めている
「健康のために、毎日5キロのランニングを欠かしません」「ジムに行って、決まったマシントレーニングをこなすのが日課です」。これらは一見、健康意識の高い素晴らしい習慣に思えます。しかし、もし運動のレパートリーがそれだけに限定されているとしたら、それは「運動パターンの縮退」に陥っているサインかもしれません。特定の筋肉や動きに偏った運動は、身体の多様性を失わせ、柔軟性や連動性を損ない、かえって怪我や不調のリスクを高めることがあるのです。
なぜ「運動パターンの縮退」は危険なのか?
私たちの身体は、そもそも多様な動きをするように設計されています。狩猟採集時代を思い浮かべてみてください。走る、歩く、しゃがむ、登る、投げる、持ち上げる…。私たちの祖先は、生きるために実に様々な動きを日常的に行っていました。この多様な動きこそが、全身の筋肉、関節、神経系をバランス良く発達させ、しなやかで強靭な身体を維持する秘訣だったのです。
ところが現代では、特定のスポーツやトレーニングに特化することで、この多様性が失われがちです。
使いすぎと使わなさすぎの二極化:ランニングばかりしている人は、脚の特定の筋肉は強化されますが、上半身や体幹の筋力、柔軟性は疎かになりがちです。逆に、デスクワークで一日中座っている人は、股関節周りの筋肉が固まり、お尻の筋肉は「使い方」を忘れてしまいます。このように、身体の中に「過労状態の部位」と「休眠状態の部位」が生まれることで、全体のバランスが崩れ、腰痛や膝痛、肩こりといった不調を引き起こすのです。
動きの効率性の低下:私たちの身体は、一つの動作を行う際に、多くの筋肉や関節が連動して働くようにできています。しかし、同じ動きばかりを繰り返していると、この「動きの連携プレー」が下手になります。例えば、重いものを持ち上げる時に、脚や体幹を使えず腕の力だけで持ち上げようとして腰を痛めるのは、この典型例です。身体が硬直化し、しなやかな動きができなくなってしまうのです。
精神的な飽きと停滞:同じ運動の繰り返しは、精神的なマンネリを招きます。最初は楽しかった運動も、やがて「義務」になり、モチベーションが低下します。また、身体が同じ刺激に慣れてしまうと、トレーニング効果も頭打ちになりがちです。
「縮退しない」多様な運動を取り入れるために
真に健康な身体とは、特定の能力に秀でていることではなく、どんな状況にも対応できる「汎用性」と「適応力」を備えていることです。そのために、質の異なる多様な運動を生活に組み込みましょう。
運動の「三種の神器」を揃える:
有酸素運動:ウォーキング、ジョギング、水泳など。心肺機能を高め、全身の血流を促進します。週に2〜3回、心地よいと感じるペースで行いましょう。
レジスタンス運動(筋トレ):スクワット、腕立て伏せ、ダンベル運動など。筋肉量を維持・向上させ、基礎代謝を高め、骨を丈夫にします。週に2回程度、全身をバランス良く鍛えることを意識します。
柔軟性・バランス運動:ヨガ、ピラティス、ストレッチ、太極拳など。関節の可動域を広げ、身体の歪みを整え、身体意識(プロプリオセプション)を高めます。これは毎日行っても良いでしょう。
「遊び」と「実用」を取り入れる:運動を「トレーニング」と堅苦しく考えず、「遊び」の要素を取り入れましょう。友人とのハイキング、子供とのボール遊び、ダンス、ボルダリングなど、楽しみながら身体を動かす機会を増やすのです。また、エスカレーターを階段に変える、一駅手前で降りて歩くなど、日常生活の中に「実用的な動き」を組み込むことも、運動の多様性を高める上で非常に有効です。
「動かない時間」を減らす意識を持つ:最も重要なのは、特定の運動をすること以上に、「座りっぱなしの時間」を減らすことです。30分に一度は立ち上がって伸びをする、少し歩き回るなど、意識的に身体をリセットする習慣をつけましょう。
運動パターンの縮退から脱却することは、身体という素晴らしい道具の「取扱説明書」を思い出し、その性能を最大限に引き出してあげる作業です。多様な動きは、あなたの身体を解放し、生涯にわたって機能的で、痛みとは無縁の、若々しい身体を保つための鍵となるのです。