2025年08月20日

縮退しない生き方 〜統合医療的縮退論〜 (9)

【情報収集の縮退】からの脱却:情報の洪水で溺れないための「知的な航海術」

 

「テレビで〇〇が体に良いと言っていたから、すぐに買いに走った」「あの有名な先生が言うことだから、絶対に間違いない」「ネットで調べたら、私の症状はこの難病に違いないと不安になった」。私たちは今、かつてないほどの健康情報の洪水の中に生きています。そして、その中で一つの情報に飛びつき、それを絶対的な真実として信じ込んでしまう。これが「情報収集の縮退」です。この状態は、私たちの理性を麻痺させ、不安を煽り、賢明な判断から遠ざけてしまいます。

 

なぜ「情報収集の縮退」は危険なのか?

 

情報の入手が容易になったことは、本来喜ばしいことです。しかし、その手軽さが逆に私たちの思考力を奪うという皮肉な現実があります。

 

確証バイアスという罠:人間は、自分の信じたいことや既にある考えを支持する情報ばかりを集め、それに反する情報を無視・軽視する傾向があります。これを「確証バイアス」と呼びます。例えば、「糖質は悪だ」と一度信じ込むと、糖質の危険性を訴える情報ばかりが目につき、その有益性や必要性を説く情報は見えなくなります。その結果、自分の考えがどんどん偏り、強化され、客観的な視点を失ってしまうのです。

 

権威への盲信:「有名大学の教授」「ベストセラー作家の医師」といった肩書きは、その情報が正しいという印象を与えます。もちろん専門家の意見は重要ですが、専門家とて間違うこともあれば、意見が分かれることもあります。また、商業的な意図や特定のイデオロギーが背景にある可能性も否定できません。権威に盲目的に従うことは、自ら考えることを放棄する行為に他なりません。

 

断片的な情報による自己診断の危険性:ネットで症状を検索すると、不安を煽るような重篤な病名がヒットすることがよくあります。しかし、ネット上の情報は文脈から切り離された断片的なものが多く、それだけで自己診断するのは極めて危険です。専門家による診察や検査というプロセスを飛ばして結論に飛びつくことで、不必要な不安に苛まれたり、逆に適切な受診の機会を逃したりするリスクがあります。

 

「縮退しない」賢い医療消費者になるために

 

情報の洪水の中で溺れず、有益な情報だけを汲み上げて自分の健康に活かすためには、「知的な航海術」を身につける必要があります。

 

情報源の多様性を確保する:一つの情報源に依存せず、常に複数の異なる立場からの情報を比較検討する習慣をつけましょう。Aという医師が「肯定」していることについて、Bという医師が「否定」している場合、その両者の論拠を調べてみる。そうすることで、物事の多面性が見えてきます。小池先生のブログのように、西洋医学と代替医療の両方に目配りしたような、バランスの取れた情報源をいくつか持っておくと良いでしょう。

 

「誰が」ではなく「なぜ」を問う:その情報が「誰によって」発信されたか(権威)も参考にはなりますが、より重要なのは「なぜ(どのような根拠で)そう言えるのか」です。その主張は、個人の経験談なのか、質の高い研究に基づいているのか、あるいは単なる伝聞なのか。情報の「根拠の強さ」を見極める癖をつけましょう。

 

一次情報に触れる努力をする:少しハードルは高いかもしれませんが、可能であれば、メディアが解説した二次情報だけでなく、元の論文(の要旨だけでも)や公的機関(厚生労働省、国立健康・栄養研究所など)の発表といった一次情報に触れてみることも有効です。これにより、情報が伝言ゲームの中でいかに歪められていくかが分かります。

 

最終判断は「自分の頭と身体」で行う:どんなに信頼できそうな情報でも、それはあくまで「仮説」です。最終的にその情報を自分の生活に取り入れるかどうかは、自分の頭でよく考え、そしてもし試すのであれば、自分の身体でその変化を注意深く観察して判断するしかありません。情報に振り回されるのではなく、情報を「使いこなす」主体的な姿勢が求められます。

 

情報収集の縮退から脱却することは、情報リテラシーを高め、賢い患者、賢い医療消費者になるということです。それは、不安から自由になり、自分の健康の舵をしっかりと自分で握るための、不可欠なスキルなのです。



この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔