2025年08月22日
縮退しない生き方 〜統合医療的縮退論〜 (11)
【健康目標の縮退】からの脱却:本当のゴールは「幸せな体感」の中にある
「体重をあと5kg減らす」「血圧を130未満にする」「体脂肪率を15%に」。私たちは健康になろうとする時、こうした客観的で測定可能な「数値」を目標に掲げがちです。数値目標は具体的で分かりやすく、モチベーション維持に役立つ側面もあります。しかし、健康のゴールがそれだけに限定されてしまうと、私たちは「健康目標の縮退」という罠に陥ります。数値を追い求めるあまり、本来の目的であったはずの「心身の幸福感」を見失ってしまうのです。
なぜ「健康目標の縮退」は危険なのか?
数値を唯一のゴールに設定することは、いくつかの深刻な歪みを生み出します。
プロセスを無視した結果至上主義:目標数値を達成するためなら、手段を選ばなくなります。例えば、体重を減らすために、極端な食事制限や過度な運動で心身を酷使する。一時的に体重は減るかもしれませんが、その代償として栄養失調、リバウンド、そして何より「食べること」「動くこと」への苦痛や罪悪感を抱えることになります。数値は達成したけれど、以前よりずっと不幸せ、という本末転倒な事態が起こるのです。
数値に一喜一憂し、振り回される:日々の体重のわずかな増減や、血圧のちょっとした変動に、心がかき乱されるようになります。数値が良い時は有頂天になり、悪い時は自己嫌悪に陥る。自分の価値が、まるで体重計や血圧計のディスプレイに表示されているかのように感じてしまいます。これでは、健康になるための努力が、かえって新たなストレス源になってしまいます。
身体の多様性と個別性の無視:健康の指標は、決して一つではありません。体重や血圧といった一般的な数値が「正常範囲」から少し外れていたとしても、その人にとってはそれがベストな状態である可能性もあります。例えば、筋肉質な人は体重が重くなりますし、高齢になればある程度の血圧の高さは生命維持に必要かもしれません。画一的な数値目標に自分を無理やり当てはめようとすることは、自分自身の身体が持つユニークな個性を無視する行為です。
「縮退しない」質の高い健康目標を設定するために
真の健康とは、数値の改善の先にある、主観的で質の高い「幸福な体感」の中にあります。その体感をこそ、私たちは最終的なゴールに据えるべきです。
「体感」を言葉にして目標にする:数値目標と併せて、あるいはそれ以上に、「どんな感覚を味わいたいか」を具体的に言葉にしてみましょう。
「朝、目覚ましなしでスッキリと起きられるようになりたい」
「午後になっても、仕事に集中できるエネルギーが続くようになりたい」
「イライラすることが減り、穏やかな気持ちで家族と接したい」
「休日に、友人とハイキングを心から楽しめる体力が欲しい」
「食事を『美味しい』と心から感じ、罪悪感なく楽しめるようになりたい」
数値を「結果」であり「羅針盤」と捉える:数値はゴールそのものではなく、自分の行動が正しい方向に向かっているかを確認するための「羅針盤」であり、努力の「結果」としてついてくるものだと考えましょう。良い体感が得られていれば、たとえ数値の変化がゆっくりでも、焦る必要はありません。逆に、数値は改善しても体感が悪化しているなら、やり方を見直すべきサインです。
「できたこと」を評価する:目標達成の道のりにおいて、結果だけでなく、そのプロセスで「できたこと」を評価する習慣をつけましょう。「今日は30分歩けた」「野菜中心の夕食を作れた」「夜11時にベッドに入れた」。こうした小さな成功体験の積み重ねが、自己肯定感を育み、持続可能な健康習慣へと繋がっていきます。
健康目標の縮退から脱却することは、私たちを数値の呪縛から解放し、健康を「義務」や「戦い」ではなく、「より良く生きるための楽しい冒険」として捉え直すことを可能にします。あなたが本当に目指すべきなのは、健康診断の結果用紙に印刷された理想的な数字ではありません。それは、生きていることの喜びを全身で感じられる、エネルギーに満ち溢れた、あなた自身の「幸せな体感」なのです。