2025年09月01日
生体城郭学のまなざし(100名城から医療を考える) 25.甲府城(山梨)
武田氏という、一つの偉大な時代が、終焉を迎えた後。甲斐の国に、新たな秩序を、もたらすために、築かれたのが、この甲府城です。築城を命じたのは、徳川家康。そして、その縄張りを担当したのは、彼の長年のライバルであった、武田家の、旧臣たちだったとも、言われています。
かつての敵の、優れた知識や、技術を、敬意をもって、取り入れ、自らの、新しいシステムの中に、統合していく。家康の、この懐の深い「プラグマティズム」こそが、彼を、天下人へと、押し上げた、最大の要因かもしれません。
この城は、武田氏館を、眼下に見下ろす、高台に築かれました。古い時代の、権威の象徴を、物理的に見下ろすことで、新しい時代の到来を、人々の潜在意識に深く刻み込む。これは極めて巧みな、心理的な演出です。
私たちの心の中にも、これと似たようなプロセスが起こることがあります。古い自分を縛り付けていた価値観や信念(武田氏館)を、客観的に見つめ直し、それよりも高い視点から自分の人生を捉え直すことができた時(甲府城を築く)、私たちは過去の呪縛から解放され、新しい自分へと生まれ変わることができるのです。
心理療法における、「メタ認知(自分を客観視する能力)」の獲得は、まさにこの心の中に「甲府城」を築く作業と言えるでしょう。
この城の天守台が綺麗な四角形ではなく、歪んだいびつな形をしているのは、興味深い点です。一見、不合理でアンバランスに見える、この「歪み」。しかし、そこには、おそらく、地形的な制約や、防御上の何らかの合理的な理由があったはずです。これは私たちの身体の「歪み」にも通じます。
骨盤の傾きや、背骨の湾曲。私たちは、ついそれを単なる「悪いもの」として矯正しようとします。しかし、その「歪み」は、実はその人なりの、重力との、バランスの取り方であり、長年の生活習慣や、心の癖が身体に現れた結果なのです。
その背景にある物語を読み解かずに、ただ形だけを整えようとしても、根本的な解決にはなりません。歪みは、身体からの重要なメッセージなのです。
幕末、この城を巡り、新政府軍と旧幕府軍が衝突しました。この時、新政府軍を率いた板垣退助が、甲斐源氏との繋がりをアピールするために、改姓したというエピソードは、前回も触れましたが、これは単なるプロパガンダに留まりません。彼は、自らのルーツと繋がることで、自らの行動に、深い意味と、正統性を与えようとしたのです。
セルフケアにおいても、自分がどこから来て、どこへ行こうとしているのかという、自分自身の人生の物語(ナラティブ)を、しっかりと持つことは、困難な状況を乗り越えるための、大きな、力となります。私たちは、物語を生きる存在なのです。