統合医療各論:漢方

統合医療における漢方・鍼灸

 日本での「統合医療」のありかたについて、漢方・鍼灸の視点から少し考えてみたいと思います。

 言うまでもなく今日用いられる「統合医療」という言葉は、近年の代替医療の台頭を背景として欧米で使用されてきた言葉の和訳です。
 こうした動向を知らない一部の方の中には「統合」という日本語にひっかかって、もしくはその前段階の「代替」という言葉にひっかかって、統合とは?代替とは?というような禅問答に持ち込む人も少なくありません。しかし、訳語であることから、あまりそこにこだわっても仕方ないのです。ここでも、その議論はすでに学会などでやりつくされているので避けることにします。

 では「統合医療」という言葉は、本当に欧米由来のみ、なのでしょうか。日本では古くから「漢方」「鍼灸」の歴史があり、保険適応されていることから、現代西洋医学と伝統医学との併用問題は存在していました。
 近隣の中国・韓国はそれぞれ別個の資格を有する医師がいるわけですが、日本では、医師免許をもつ医師のみが両者を併用することが法的に可能である点が大きく異なります。

 こうした状況下で、一部では「漢方こそが正当で、西洋医学が代替なのだ」とか「CAMに漢方は分類されない」といった主張がされ、一方に偏る論調もありましたが、一部では、未来の日本の医学では西洋医学と東洋医学の理想的な共存を思い描く東洋医学関係者も少なからず存在していました。

 こうした流れのなかで早くも1978年に明確に「統合医療」概念を提唱したのが広島県の外科医、小川新先生でした。小川先生は腹診発展に寄与した著名な漢方医でもあり、まさに東西の医学を実践されていた先生でした。私にとっては学生時代ならびに、卒後数年の休みの時には、医院(小川外科)にて臨床を教えていただいた恩師でもあります。

 こうしたわが国での東洋医学関係者の永きに渡る努力が、今日の日本での「統合医療」理解の素地になったことはいうまでもないでしょう。
 われわれは、こうした背景から、欧米の統合医療の動向を理解しつつも、わが国独自の「統合医療」を形成していかなければならないでしょう。私自身も自分のクリニックで、漢方・鍼灸を重視するのはこうした理由からです。もちろん、非常に有力なサプリメントやホメオパシーも大切なのはいうまでもありません。
 しかし、概念ではなく、臨床モデルとしての日本の「統合医療」をしめすにあたり、漢方・鍼灸を主軸にすえることの重要性を感じています。これにより「統合医療」概念のブレが少しは減るのではないでしょうか。




tougouiryo at 2021年07月25日08:00|この記事のURLComments(0)

腰痛の漢方

 今回は腰痛についてです。いわゆる筋膜性腰痛でも東洋医学的には、いろいろなわけ方が可能です。

 

 腰痛の漢方を考える場合、急性の痛みか慢性的なものなのかは重要です。ギックリ腰のような急性の腰痛では、一般に芍薬甘草湯がよく用いられます。そして慢性的な腰痛では、老化(東洋医学的な「腎」の衰え)と瘀血が大きな原因となります。

 

老化をメインとした症状では、「腎」の気を高める「附子」を用いた処方である八味地黄丸や牛車腎気丸などが用いられます。こうした適応の方には冷えがあり、冷えの程度により専門の医師は、附子の量を調節します。

 

 また瘀血をベースにした腰痛も少なくありません。末梢循環の不良がベースにあるわけですから、腰部にも十分な血流が回らなくなり、痛みを生じるのです。こうした腰痛には桂枝茯苓丸や桃核承気湯など、いわゆる駆瘀血剤が有効です。また冷えのぼせの状態が強いときには五積散も有効です。

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tougouiryo at 2009年02月02日18:00|この記事のURLComments(0)

漢方薬の品質について感じたこと

 漢方薬についての解説を書いていました。意外に知られていないのが、エキス剤と湯液の2種類がある、ということでしょうか。
 一般に病院で出される粉薬のかたちが「エキス剤」です。一方、漢方薬局で出されるイメージなのが、生薬そのままの「湯液」です。湯液は煎じる手間があるので、一般にはエキスが普及しています。ただ本来の効果は湯液であるのはいうまでもありません。

 では、生薬が出されれば、なんでもよく効くのでしょうか。値段が高ければ、よく効くのでしょうか。ここは非常に難しいところで、生薬を見る鑑定能力が、それらを左右するのです。
 一般の人はどうすればいいの?どうすればいいものとわかるの?いろいろと疑問は出るかと思います。ただ、一般の方がこれを見極めるのは非常に難しいといわざるをえません。

 結局のところ、信頼できる医療機関を自分の感覚で探すしかないというのが現状です。ですから、ただ高い、とか、すごそう、とかいうのはあまり参考にはならないのです。私のクリニックでも生薬については、こだわっていいものをと気をつけておりますが、これからは、利用者の側の理解も進むことが必須です。

 いわゆる自然医療は「自覚的な健康意識の高い人」には優しい医療なのです。だからこそ、ひとりひとり、ただのお任せでない姿勢も重要なのです。

 そうした「自覚的な健康意識の高い人」への参考になる情報をここで、これからさらに提供していきます。サイト名もクリニック関連と分け「統合医療医 小池弘人の統合医療サイト」とでもしていこうかと思ってます。


tougouiryo at 2007年02月18日20:02|この記事のURLComments(0)

統合医療的漢方講座(2)

五行と六病位

 

 陰陽の概念から、東洋医学、中国医学の考え方の基本を学び、気・血・水の概念から中国医学特有の生体の概念を学習しました。それでは次の見方、五行はどのように考えればよいでしょうか。これは5つの類型に人を分類する方法と見ることができます。つまり、体調と性格の両面から大きく5つに分類することになります。すべてが、この5つにきれいに分類されるわけではありませんが、それらの複合したものと考えれば、かなりの適応が可能であろうと思います。五行に対応するそれぞれのタイプを見てみましょう。自分はどれとどれに一番近いでしょうか。

 

「木」・・・イライラした怒りと緊張の状態  怒りによる陽性のストレス状態・不穏

「火」・・・傷つきやすく神経質で心配性  焦燥感による動悸・不安・不眠

「土」・・・ウジウジといつまでも考え依存的  神経性の消化不良・胃もたれ・下痢

「金」・・・憂鬱で後悔も多く悲観的  虚弱をベースにした呼吸器疾患・咳・鼻水

「水」・・・無気力で自信喪失、漠然とした不安  疲労・老化をベースにした気力低下

 

五行のそれぞれの相関関係が相生・相克となります。この関係性から、ただ単に5つに分類するだけでなく、違った角度からのアプローチをも可能にします。そしてそれらを元の健やかな状態へと戻していくことができます。それでは元の健やかな状態とはどのようなものなのでしょうか。理想的な五行の状態を見てみましょう。

 

「木」・・・相手に同情心を持てる、適応力のあるまとまった性格(同情)

「火」・・・愛情ある、繊細な楽しい性格(愛情)

「土」・・・相手に共感できる、思慮深い性格(共感)

「金」・・・相手に敬意を払える会話好きな活力ある性格(敬意)

「水」・・・知恵のある臨機応変で賢明な性格(知恵)

 

以上が体質のタイプ別としての五行の概略です。それでは次に、六病位はどうでしょうか。これは病に対する生体の対応と考えられます。つまり、何らかの生体に対するストレスへの対応の違いと言えるでしょう。対応力の強い三陽と、弱くなっている三陰の6通りの対応に分けられます。本来の古典的意義としては、病の進行のステージ的意味合いが強いのですが、日本漢方のとらえ方では慢性疾患にも適応される概念だけに、広く対応の違いとしてとらえる方がいいようです。「ステージ」より幅を持たせた理解をすべきでしょう。

 

ここで、ここまでの基礎概念をまとめてみます。ただの総論ではなく、実際に人を診るときにどのように応用されるのだろう、という観点で見直してみることが必要です。今までの理解と比べてどうですか?

 

陰陽:二元論に基づく世界観(二元論でみる)

気血水:生体を構成する三要素(生体の構成要素からみる)

五行(五臓):体質の5パターン(性格・体質別でみる)

六病位:疾病への対応の6パターン(対応法の違いでみる)

 

これらの見方を駆使して、実際には漢方相談に当たります。人をどのように見るか、そこからして違いがあることを知っていただくことが重要です。


tougouiryo at 2006年08月29日22:41|この記事のURL

統合医療的漢方入門(1)

 

世界の様々な伝統医学には、それぞれに異なる生体観があります。たとえば、中国医学では「気・血・津液」、アーユルヴェーダでは「ヴァータ・ピッタ・カファ」といった生命の構成要素により成り立っていると考えています。それらは科学的には何にあたるの、というような疑問はもたず、そうした科学的概念のない時代の見方にこちらから近づいていくようにするのも、こうした伝統医学の理解には不可欠です。

 

これらの中でも特に、際立ったもの、つまりは伝統医学特有の概念は「気」「エネルギー」と称されるものでしょう。生命を生命たらしめているものの概念であり、それぞれの伝統医学における根幹をなすものともいえるでしょう。それゆえに伝統医学を学ぶ際にこうした概念は、最も興味深く感じる人も多い反面、難解さを感じる人も少なくありません。ある意味で相補代替医療を学ぶ醍醐味がある、とも言えるでしょう。

 

まずは、漢方特有の生体の3要素になれるようにしましょう。生体を皮膚、筋肉、血液、骨格…というようには分けずに、気・血・水の3つに分けるように考えます。

 

     気…生命エネルギー

     血…生体を構成する赤い液体

     水…生体を構成する透明な液体

 

各要素において、それぞれを以下の観点から考えてみます

     量の多少

     流動性の悪化

     病的偏在

 

 自分の体を、気・血・水の3要素でみる訓練をします。(気・血・水メガネでみる)

どの成分が、どのようであれば「健康」ですか。

 いきなりどの処方がいいのか、という観点ではなく、まず、生体をどう見るかという観点が先であるはずです。次にそうした見方に基づいて、処方が決定されていくべきです。

処方の構成を考えるとき、「作る側」に立って考えることも時に必要です。

 

付)陰陽の理解について

陰陽五行は中国医学において大変重要な概念です。あくまでも相対的なものとして、何が陰で、何が陽であるのか、具体例で考えてみることも大切です。これを通して、中国伝統医学におけるモノの見方が理解できるようになるのではないでしょうか。


tougouiryo at 2006年08月18日22:16|この記事のURL

漢方

  わが国で「漢方」というとき、大きく分けて2つの流れを考えなければならない。一つは、中国から伝来した医学が日本独自に展開した、いわゆる「漢方」と、本家中国における「中医学」である。また日本漢方としても、大きく二派に分けることができる。「後世派」と江戸期に勃興した「古方派」である。現在は、中医学を含め、それぞれの系統の単独継承もあるが、一般には折衷・統合されたかたちで実践されている。また、これらから発展した形で、近年、「経方理論」などの新理論も誕生している。

一般に漢方は、細粒の「エキス剤」と生薬を煮出す「煎じ薬」が使われることが多いが、それ以外の剤形も増加している。医療現場においては、その利便性から「エキス剤」が一般化しているのが現状である。どちらにしても漢方的な診断である「証」など東洋医学的診断により処方されることが望まれる。単純な病名と処方との対応では不十分といえる。そうした意味でも、しっかりとした伝統医学的思考に基づいた処方を受けることが必要になる。また、漢方処方の良い点は、オーダーメイドである点である。症状や症候にもとづいて、構成生薬を考慮しながら加減していくことが最も理想的であるといえる。ひとりひとりにきめ細かく内容を考慮することこそ、漢方の最大の強みともいえよう。そのためにも必要であれば、面倒ではあるがエキスよりも煎じ薬が、より適しているであろうことは言うまでもない。天然の植物の持つ癒しの力を取り入れる、という点でも煎じ薬は魅力的である。統合医療の観点からも、最大級の治療体系であるといえよう。

 

メカニズム

生薬の有効成分や相互作用による薬理効果。

 

メリット

現代医療的病名を越えて、独自の診断システムにより治療が可能。加減によりオーダーメイドの処方が可能。わが国においては馴染み深い治療方法。


tougouiryo at 2006年07月28日18:22|この記事のURL