アリゾナ大学統合医療プログラム

アリゾナ大学統合医療プログラムの紹介

 

統合医療プログラムの概略

アリゾナ大学統合医療プログラムは、1997年に設立され、ワイル博士は現在も同プログラム部長として教育及び臨床に携わっている。このプログラムは毎年5名ほどのFellow50名に及ぶインターネット教育を主体としたAssociate Fellowにより構成される。Fellowはその期間である2年間に臨床・研究・教育に携わりつつ、所定の項目の単位修得が義務づけられる。独自の学習内容がインターネット上に組まれ、これを全世界のAssociate Fellowと共有して学習していく。Fellowは、はじめの1年間は、レクチャーなどが密なスケジュールで組まれており、その後の2年目は自由な時間が多く、自主性を重んじた内容になっている。研究に関しては、卒業研究といった形でAssociate Fellowとの共同作業を兼ね、生薬の生理活性から費用対効果の研究まで幅広く行うことができる。個人の希望によっては、催眠やエネルギー医学などの臨床的技法の習得時間として利用する者もいる。また、教育も担当しており、アリゾナ大学医学校の統合医療に関する講義から、一般向けの代替療法の講習会までをそれぞれのFellowが分担している。また大学内外からも多数の講師を招聘して、代替療法に関してはもちろんプレゼンテーション法などの講義も行われる。つまり、臨床・研究・教育を実践しつつ、自らも学習するシステムといえる。こうしたFellowAssociate Fellowはインターネットを教育ツールとして共有することになる。

 

Fellow履修項目の紹介

まずはFellowについて簡単に説明する。大学近郊のPIM Buildingにおいてレクチャーなどを受け、空いた時間に各々のデスクのパソコンに向かって、Associate Fellowと同様のインターネットでの学習をする。週3回の統合医療の外来診療に加え、太極拳などの講習、月に一度のX9Dayと称するワイル博士の自宅でのミーティングに参加することができる。これは各自が食材を持ち込んで料理をする非常に楽しいパーティーのような会で、プールに入ったり、庭の露天風呂に入ったりして、普段は忙しいワイル博士との交流を図る時間となっている。次にFellowの修得すべき内容の紹介であるが、哲学的内容から各種代替療法の各論までと実に幅広い。これはAssociate Fellowにおいても同様である。以下に2002Fellowの履修項目及び2年間での修得時間の目安を示す。

Philosophical Foundationsとして、現代科学の方法とその歴史、哲学、およびその限界について学習する「科学哲学」が50時間、患者中心のケアを説く「医学技術」が125時間。さらには文化による健康願望の違いをはじめ疾患や治療における文化的独自性などを学ぶ「医学と文化」95時間が含まれる。医学をその哲学から考え、文化との関連性をもう一度見直そうという、このプログラムの姿勢がよく表されている内容である。

Lifestyle Practiceでは、治癒における栄養の役割を理解する「栄養医学」が210時間。運動処方を作成し、患者の運動への意欲を高める「フィジカルアクティビティ」が110時間。心身相関のメカニズムの理解とその臨床応用を学ぶ「心身医学」が300時間。治癒の過程におけるSpiritualityの意義、精神性や宗教性との違いなどを学ぶ「Spiritualityと医学」140時間。

Therapeutic Systems and Modalitiesでは代替医療の各論を学習する。ハーブの利用方法を学ぶ「植物医学」が200時間。中国医学理論や診断方法、鍼灸、太極拳などを学ぶ「中国医学」110時間。オステオパシーなど徒手医学の実践を学ぶ「徒手医学」165時間。様々なエネルギー医学の哲学とその実践を学ぶ「エネルギー医学」155時間。基本的なホメオパシーの理念を学ぶ「ホメオパシー」70時間。環境やセルフケアについて学ぶ「予防医学」65時間など多彩な項目がある。

その他、Personal Development and Reflectionとして自己の内省を促す項目や、代替医学の研究デザインや論文発表までを学ぶResearch Education、統合医療を推進にあたっての指導論を学ぶLeadership Medicineなど、幅広い内容を含んでいる。これらの項目は毎年、若干の変更が加えられ、改善されていく。私の修了した2004年では上述したものに加え、統合医療の法的側面を学ぶLegal and Integrative Medicineや、架空の症例で統合医療の実際を学ぶClinical Scenarioといったものもあり、さらに充実していた。これらを修了後、一部のFellowはいくつかの単元を受け持ち、今度は教育する側にまわることもある。こうしてさらに内容が充実していく仕組みになっている。

 

統合医療臨床(クリニック及びカンファレンス)の紹介

 Fellowは前述した内容の学習に加え、週3回の外来診療が義務付けられる。アリゾナ大学の附属病院であるUniversity Medical CenterにおいてPIMクリニックとして診療部門が開設されている。診療形態は、予約制で自主的な受診や他科及び地域開業医からのコンサルテーションが一般的である。ただし受診希望者は多く、数ヶ月待ちが一般的である。診察の形態としては、詳細な問診と身体所見を初診時にとり、主に1年目のFellowはそれを次に述べるカンファレンスにかける。2年目のFellowは順番でその司会進行役となる。診察後には全ての患者に対して、ワイル博士自身が総括的コメントをする。再診時には、カンファレンスにもとづいて個々の患者に対して様々な処方、指導がなされる。時に、代替療法家に紹介されるが、23ヵ月後の再々診時において、それらの介入が適切であったか医師の目から再検討される。つまり、ただ振り分けるだけでなく、不適切もしくは不変であれば、再度、方針が検討されることもある。訪れる患者は、ストレスにはじまり末期がん患者まで実に多彩である。このあたりの事情はわが国における統合医療診療の事情と似ているかもしれない。

 毎週月曜日にUniversity Service Centerで行われるカンファレンスは、こうした初診時のプランを決定する場であり、Fellowをはじめとしたプログラムの教育関係者に加え、様々な治療家(インターネット教育もあわせて担当していることが多い)が招かれる。その領域を列挙すると、自然療法、中国医学、オステオパシー、ホメオパシー、エネルギー医学、催眠療法、ガイドイメージ法等である。それぞれの専門家が自らの立場で、疾患の捉え方や治療法をコメントしていく。それらをFellowが最終的にまとめ、患者に伝えるわけである。この過程でFellowはそれぞれの代替療法家のコメントからその実際を学ぶことになる。さらに個人的に興味のある療法に関しては、専門家のもとでさらに詳しく学ぶこともある。

 また研究的側面として、クリニックに、臨床研究を目的として、患者のカルテをフォローし解析する専門家がいたことも印象的であった。

 

Associate Fellow

次にインターネットによる教育を主体とするAssociate Fellowに関して解説する。米国のみならず、世界各国から参加できるAssociate Fellowは、日本人の在校生と修了生の総数は2005年現在で8名である。この数は米国を除くと第1位である。全プログラムは2年間で、その間に3回のResidential Weekがあり、アリゾナ大学のあるツーソンを訪れ、約1週間滞在して学習する。必要なテキストは購入が指示され、その他、参考文献などはインターネットからダウンロードする仕組みになっている。

Residential Weekについてここで少し紹介する。これまでの開催場所はアリゾナ大学のあるツーソン市街から離れたホテルWestward Look Resortにて行われている。1回目のResidential Weekは入学式を兼ね、実際のインターネットを通じた操作の説明や、統合医療の基本理念や哲学といった総論的な内容が多い。ついで2回目は、すでに1年経過していることもあり、鍼灸や催眠などの実技を伴う講義が多い。講義の種類も豊富で、複数の科目が同時開講され、選択形式になっている。3回目は2年経過後で、最終日には卒業式も行われる。講義内容もより実践性の高いものが多く、卒業生による開業モデルの提示など具体的なビジネスモデルの講義が充実している。合わせて、それまでインターネット上でグループを組んで行ってきた卒業研究の発表もある。実際に顔を合わせるのは、3回だけであるが、常にインターネットでお互いが会話しているような感覚があり、卒業時には別れがたい親しみを感じた。そうした意味でも、全ての総括としての卒業式は感慨深く感じた。卒業時には修了書とともに、ワイル博士から一人一人手渡される「杖」は、これからの統合医療の荒波に倒れずに進んでいけるように、との願いがこめられており、今でも思い出深いものとなっている。


tougouiryo at 2006年07月24日09:48|この記事のURL