統合医療あれこれ

統合医療の方法論に関して

  ゴールデンウィークですが、特にどこへも出かけず、本など読んでいます。その中で考えたことを少し・・・。

 「誰も教えてくれなかった診断学」(野口善令・福原俊一著・医学書院)を先日ふと手にとって面白そうだなと思い、買って帰りました。内容はいわゆる診断学の教科書とはかなり違って、実際のデキる医師の問題解決方法を具体的に解説した面白い内容でした(一般向けではありません。総合診療を志す研修医にはお勧めだと思います)。思考過程を客観的に考える機会は少ないので、統合医療も視野に入れて考えたとき、非常に参考になりました。(この本は純粋な西洋医学的「総合診療」が対象なので「統合医療」については書いてありません。念のため)

 この中で、著者は診断を自信をもって行うために病態生理を一生懸命勉強した時期があったが、それではあまり自信につながらず、確率的な疫学的観点を取り入れてから、自信を持って診断できるようになった、ということを書いています(細かな記憶違いあったらスミマセン)。これはある意味、非常に興味深い指摘で、実際の臨床の最前線では、いわゆる機械論的な病態生理学的観点よりもむしろ、対象を非決定論的なブラックボックスとして捉え、確率論として事象(診療場面)を捉える方が実践的だと言っているわけです。

 これは統合医療として扱うときのCAMの扱いにも応用できます。代替医療を論ずると、現段階ではつねにそのメカニズムの合理性も同時に議論されます。しかし、これを症状改善というアウトプットから評価したらどうでしょうか。何も結果よければすべてよし、などと言うわけではありませんが、非常に重要な視点であることも事実です。漢方など東洋医学はいいが、ホメオパシーはちょっと・・・というときにはたぶんにこうした思考が働いていないでしょうか。

 現実の臨床場面では、理論どおりにことが運ぶことの方が稀といっても過言ではありません。そうした中で、疾病志向性の強い現代西洋医学ですら、確率的推論の重要性が指摘されています。ましてや、疾病に反応する生体、そのものを対象にすることの多い代替医療を包括する統合医療を考えるとき、従来のようないわゆる理論偏重型では足りないような気がするのです。

 漢方をはじめ代替医療にはたくさんの、それでいて奥深い理論体系がたくさんあります。一人の臨床家が生涯をかけても1つですらも極めつくすことは困難でしょう。しかし、だからといって「一つだけ」でなければいけない、というのも一面的にすぎます。一つだけを生涯追い続ける専門家は必要です、しかし、横断的にいくつかの療法を理解する臨床家もこれからは同時に必要だと思います。これは、腎臓なら腎臓の専門家が遺伝子から最先端治療まで熟知する反面、総合診療的にみる家庭医も腎臓病についての一定の知識を求められることと同じように思います。こうした見方のシフトを促進する動きとして前述の「診断学」の本が捉えることができるように思えます。

 統合医療の包括する代替医療の世界はいまだ混沌とした百花繚乱の時代です。統一的な理解にする必要はありませんが、ある程度の、生体側に働きかけるアプローチとしての整合性が今後必要になってくるように思えます。総合診療領域における「仮説演繹的」な方法論が、統合医療領域の生体の自発的治癒へのアプローチにおいても出現してくることが望まれます。

 メモ的に備忘録としてざっと書き付けましたので、わけが分からなかった方すみません。おかしなことを言い出したわけではないのでご安心を。


tougouiryo at 2008年05月05日16:50|この記事のURLComments(0)

世界の伝統医学(最終回)

 今回はチベット伝統医療の紹介です。

 チベット伝統医学は、アーユルヴェーダの基礎概念に基づいており、中国医学的な薬草・鍼灸も併用する、伝統医学の中では最も新しいものといえます。歴史的には7世紀頃からの登場となります。よって3大伝統医療とした場合は3つの中に数えないことになります。

 この医学体系の特殊性は、チベットの地理的な影響により、中国伝統医学、アーユルヴェーダ、そしてユナニ医学が、チベット仏教を精神的基盤として、統合されたものといえるでしょう。つまり基礎的な生理概念としてはトリドーシャに相当する3つの要素で生体を説明しています。ルン、チーパ、ベーケンで、それぞれが、ヴァータ、ピッタ、カファに相当します。

 また、この医学の特徴的な診断法に「尿診」があります。遠方の患者さんの診断にも力を発揮する診断法でもあり、尿の色、臭い、味、泡や沈殿物の有無をはじめ、詳細に観察されます。こうした特長的な面に加え、三大伝統医学の統合として、今後更なる研究が進むことが期待される医学です。

 一通り、伝統医学を眺めてみて、いかがだったでしょうか。それぞれの地域に独立して伝統医学が誕生しているのではなく、それぞれが地球規模で干渉しあいながら、形成されてきているのが理解されましたでしょうか。そういう意味では、統合医療は、ユナニ医学がヨーロッパへと影響し近代医学が形成された後、アメリカなどでの発展を経て、世界規模で統合されてきたものとも見ることができるかもしれません。

 伝統医学については、地理的な関係がわかりにくかったかもしれませんが、次回の「看護技術」に伝統医学として、解説予定ですので、そちらもご覧ください。


tougouiryo at 2007年04月12日14:48|この記事のURLComments(0)

世界の伝統医療(5)

 それでは今回はインドの西方の代表的伝統医学をご紹介します。アラビア伝統医学である、ユナニ医学とは「ギリシャ風の医学」を意味し、ヒポクラテスやガレノスに代表されるギリシャ医学を基本に、アーユルヴェーダやメソポタミアの古医学などを包括したものといえます。そうした意味では、東西伝統医療における初の統合医療とも言えるかもしれません。

 またカバーする地域が、イスラム世界において形成されたことから、その精神的側面をイスラム教により補完されているとみることもできるでしょう。今日でも、イスラム世界の健康を担う重要な医学体系で、ユナニ医学の大学もあり、この地域の保健を担う現役の医学体系でもあります。

 また、ユナニ医学には医学にとって、その他にも重要な役割があります。中世においてヨーロッパの伝統医学を継承し、現代西洋医学へとつなげていったという役割です。ヒポクラテスに代表されるギリシア医学は、一足飛びに近代西洋医学へつながるのではなく、間にユナニ医学を経過してヨーロッパへ伝わってきたのです。

 

 ユナニ医学における名医イブン・スィーナによる著書「医学典範」は、実に17世紀に至るまでヨーロッパの医学校で教科書として使用されていたものなのです。これにより現代西洋医学の、専門別診療方式や、臨床・基礎医学の分類法などが形成されたといいます。つまり現代西洋医学の祖にあたるともいえるのです。

 

 私たちは知らなければ、現代西洋医学と伝統医学とを、つい対立する構図のように捉えてしまうことがあります。しかし、このユナニ医学を見ることにより、アーユルヴェーダから現代西洋医学への、途切れることのない流れを知ることができるのです。世界の医学史において、ユナニ医学の重要性はこうしたところにもあるのです。

 

 それでは次回は、4大伝統医学最後のチベット医学へとうつります。ペルシャ、インド、中国の伝統医学を統合したもっとも新しい伝統医療です。

 


tougouiryo at 2007年04月10日00:30|この記事のURLComments(0)

世界の伝統医学(4)

 前回は最古の伝統医学といえるインド伝統医学について解説し、中国伝統医学に至りました。今回は、簡単に東アジアへ広がりを見せる中国伝統医学に話題を移しましょう。

 これまで中国医学については解説してきたので詳細は省きますが、漢方、鍼灸に加えて、気功やマッサージ(推拿)などの方法論を陰陽・五行論に基づいて体系化したものと言えます。文字通り中国がその祖にあたります。それが、東アジア全般に、それぞれの土地に適応する形で展開し、韓国では「韓医学」、日本では「漢方医学」となって今日に至ります。したがって中国伝統医学と漢方医学とは、厳密には同一のものではないことになります。

 

 この二つの体系の相違は、五行説などの思弁的な要素を採用するか、否かが大きな違いといえそうです。理論重視と実態重視とでもいえるでしょうか。まあ、それほど簡単にはわけられませんが、こうした違いこそ民族性といえるのでしょう。つまり、東アジアに展開する類似した医学理論でも大きな相違があるわけです。

 

 中医学と漢方とは違うんだ、とだけ知っておくだけでもよいかもしれません。

 ちなみに東南アジアへは、インドから直接影響を受けた医療体系が展開していきます。次回は西方への展開としてのユナニ医学です。


tougouiryo at 2007年04月09日17:28|この記事のURLComments(0)

世界の伝統医学(3)

 世界にはたくさんの伝承された医学があります。その中でも、理論体系化され、現在においても命脈をたもっているものを、伝統医学と呼んでいいかと思います。前回はそうした伝統医学のなかでも最古とされるインド伝統医学、アーユルヴェーダについて説明しました。

 3つのトリドーシャといわれる要素により、生体の状態を説明する独特の理論体系で、これは中国伝統医学にも影響を与えているとされます。また、この医学の流れはタイやインドネシア(ジャムー)へと伝播し、3大伝統医学を統合する形で形成されたチベット医学の源流ともなっていきます。こうした医学は決して過去の遺物ではなく現在においても、それぞれの地域で重要な役割を有していることは説明するまでもないでしょう。

 われわれが普通、東洋医学というと真っ先に思い浮かべる中国医学以上に世界的な規模で影響を与えてきた医学なのです。現在でも、健康法といったときの代表格に気功(中国医学)とならんでヨーガ(インド伝統医学)があげられることから、その影響力の強さをうかがい知れます。また湯液という形で薬草を煮出す中国医学に対して、アーユルヴェーダは油を使用するのも大きな特徴といえます。親水成分に対する親油成分というわけです。これは今日、漢方に対して、アロマセラピーが相補的な役割を持ってきたことと、大きく関係する点でもあります。いずれにせよ、われわれ東アジアに住むものが強く影響を受けている中国医学の背後に、こうした大きな医学の存在があることを忘れてはいけないのです。

 それでは次回は、こうしたアーユルヴェーダと並び立つ中国伝統医学に話題を移していきましょう。伝統医学の相互関係がだんだん理解されてきましたか?


tougouiryo at 2007年04月01日23:00|この記事のURLComments(0)

世界の伝統医学(2)

 それでは、世界の伝統医学を今回からざっと概観してみましょう。それぞれの医学の独自なところと共通点などを考えながら、世界の医学の全体像を捕らえてみましょう。インドの伝統医学であるアーユルヴェーダがはじめです。

 アーユルヴェーダとは、アーユス(生命)とヴェーダ(科学)の合成語で、言ってみれば「生命科学」とも訳せるものです。伝統医学のなかでは最古の部類といえ、その起源は紀元前6000年頃と言われています。アーユルヴェーダは、生体における様々な反応を、三つの機能「トリ・ドーシャ」で説明する独自の生命観を持っています。

 トリ・ドーシャはヴァータ、ピッタ、カファ、の3種類に分類されます。3つのドーシャをみていきましょう。ヴァータは、空と風により成り、運動・循環・蠕動のエネルギーにあたります。次にピッタは、火と水により成り、変換・消化・代謝のエネルギーとされます。最後にカファは、水と土により成り、結合・分泌・構造維持のエネルギーとされます。各人の体質は、これら三要素の配分により決定され、そのバランスが健康を左右するわけです。

 また、アーユルヴェーダは内科的な面のみならず、外科的な面でも大きく発展しており、12世紀に著されたアーユルヴェーダの教本では、白内障・痔・ヘルニアの治療や美容形成手術、腎臓・胆石摘出手術の技術についての記載まであります。伝統医学を何か、未開の医療のように感じていた方には驚きでしょう。今日でも、インドの数億ともいわれる人々の健康を担っているといわれる、アーユルヴェーダの魅力は今後ますますわが国に紹介されることでしょう。

 

 さまざまな伝統医学を考えるにあたり、その基本とも言える位置にあるのがアーユルヴェーダといっても過言ではないものなのです。

 


tougouiryo at 2007年03月22日19:25|この記事のURLComments(0)

伝統医学とは何か(1)

 統合医療というと一般に「〜療法を取り入れている」という意味で用いている人が圧倒的に多いようです。とくに民間療法(先端科学的であっても、伝承的であっても)をひとつ取り入れている、というものもあるようです。小池統合医療クリニックでは中国伝統医学の流れを汲む「漢方」「鍼灸」を扱っています。

 とくに民間療法が悪いわけではないのですが、統合医療というとき、そのメインはやはり「伝統医学」ではないかと思います。民間と伝統?どう違うの?という方も多いかと思いますので、そうした解説をしてみたいと思います。

 まず、伝統医学というと多くは3(もしくは4)に分類されます。中国伝統医学、インドの伝統医学であるアーユルヴェーダ、アラビアの伝統医学であるユナニ医学です。これらは独自の理論体系を持ち、経験的で理論を持たない民間療法とは一線を画すものと考えられています。

 こうした医学は現に世界中で現役として活躍していますし、疾病を前提とした現代西洋医学よりも予防などに幅広い可能性を持っているといえます。また発展途上国においては、安易な現代医療導入より、こうした伝統医学の活用が急務となっているのです。

 世界の医学の現状を考えるとき、伝統医学の存在は不可欠のものなのです。次回以降、少しずつ簡略にご紹介していきたいと思います。


tougouiryo at 2007年03月19日13:19|この記事のURLComments(0)

統合医療と工学(医工学)の将来

統合医療と工学の今後の関係性について少し述べてみたい。一見何の関係もないような統合医療と工学との関係であるが、現代医療の中で、統合医療が実際に発展していくには、今後、さらに注目されるべき関係ではある。ここでは検査測定ならびに治療という観点から少し私見を述べたい。

統合医療分野における医工学の役割には大きく分けて2つの領域があると考える。一つは狭い意味での治療分野である。様々な機器を用いて、生体への何らかの刺激を与えるものである。温度や磁気などである。機器から個人の身体への作用とも言え、これは通常、保健医療機関で実施されているものを除くあらゆるものが含まれる。なんらかの刺激が加えられればいいのである。

そして、もう一つは検査測定分野で、これは広義の治療分野ともいえる。単なる生体の新知見を学問的価値だけで検査測定するのであれば(つまり学問的に)、これに当たらないが、この場合は測定結果を被検者(患者)にフィードバックするものをここでは想定している。このフィードバックにより、被検者は自分の身体に関する新たな情報を得、これをリソースとして、健康生成の糧とすることができる。つまり、機器から、個人の認知システムを経て、その身体へ作用すると言えよう。簡単にいえば、データを見て反省し、生活習慣を改善する、ということである。生活レベルでのバイオフィードバックともいえなくもない。

 例えば、アニマルセラピーにおいて、ペットとのふれあいが良いのは言うまでもない。これに臨床生理学的手法である心拍変動解析を用いて自律神経の観点から評価することで、科学的効果を認識することができれば、その後のセラピーの効果向上が期待される。数字にでるとやる気もでるものである。

またアロマセラピーのトリートメント効果なども同様である。こうした様々な治療(セラピー)はその評価方法を得て、より心身両面より効果を及ぼすと考えられる。また、こうした考えを発展させると、必ずしも代替医療的治療を用いた場合でなくてもいいことになる。各自の適切であると思うライフスタイルの良いモニターにもなるのである。つまり、何か(治療)を与える従来の診療形態を超えて、測定評価する中で、アドバイスのみを与え、適正な健康生成の姿勢へ向かわせることができるわけである。これこそ自発的治癒を目標とする統合医療の目指すところと一致する。

 これらに対して、従来の人間ドックや検査測定項目と相違ないのではないか、という反論もあるだろう。その大きな相違点としては、従来の検査はいわゆる「異常」を発見することが主な目的であった。検査における精度の上昇は、いわゆる「診断」の付かない状態を増やすことにもなりかねない。一方、代替医療的介入を評価する場合、それではあまり有効ではない。ここでは、わずかな差異が反映される検査形式が望ましい。その分、厳密性や再現性が若干、犠牲になることもあるかもしれない。しかし、こうしたニーズはテレビの健康番組を例に挙げるまでもなく、きわめて高い。この領域は、また統合医療それ自体とも若干趣をことにすることもあるが、今後見逃せない分野である。こうしたニーズに対して、様々な医工学的手法により、たくさんの視点が提供されるのが望まれるわけである。近年の様々な機器の開発はまさにこうした実際的な指導と表裏一体であり、技術発展・開発のみならず、統合医療的な考えを基盤にした、健康生成的臨床が不可欠である。解釈という視点が統合医療と医工学接点において今後ますます重要になっていくことを指摘しておきたい。


tougouiryo at 2006年10月06日05:24|この記事のURL

代替医療におけるプラシーボ効果

 プラシーボ効果は医学に関係する方であれば、なんとなくマイナスのイメージを持つ人も多いのではないだろうか。しかし、代替医療や統合医療の観点から見ればどうだろう。積極的に活用する、という見方もでてくるのではないだろうか。ここでは以前書いた原稿を紹介し、プラシーボ効果について再考する機会としてほしいと思う。

 

従来のプラシーボ効果をめぐる状況

 プラシーボ効果とは、一般に薬理効果のない物質や治療法であるにもかかわらず、臨床的効果を及ぼすもの、と言えよう。それゆえプラシーボは「不活性または作用のない物質」と定義されることが多い1)。広く医療行為においては、実際には不可分に含まれていると考えられるが、研究的側面においては、排除すべきものと考えるのが一般的である。この効果をいかに排除するかが、臨床研究の成否を握るといってもよく、その方法論上で最重要とされているのが「二重盲検法」である。それゆえこの方法は、広く薬物等の効果判定として用いられているわけであり、代替医療の検証においても例外ではない。つまり、プラシーボ効果を除去しなければ、科学的にその効果を証明したことにはならないのである。この方針は、代替医療の検証において、とりわけ、ハーブや健康食品等の効果の検証において特に有効といえる。

 

代替医療評価における二重盲検法の問題点

 ただし、この方法にはバイアスを完全に除去できているのかという問題点もある1)。バイアスを最小限にした適切な対照群を設定しなければならないという問題である。薬物類の検証においては「偽薬」を設定しなければならないが、カイロプラクティックやアロマセラピーなど、偽薬にあたるコントロールを設定しにくい療法の検証は困難である。鍼灸の検証においては、偽の鍼等を用いて、方法論の工夫をしているものの、厳密な意味では問題点も少なくない2)。また、そもそも代替医療の本来の性質から、心理反応を積極的に利用する側面もあり、その効果判定からプラシーボ効果を除去することの是非も議論されており、積極的に臨床に取り入れるべきという見方もある3)。つまり、代替医療はプラシーボ効果を積極的に用いる体系である、とも言えるわけである。ここで我々は、代替医療を研究するにあたっては、プラシーボ効果に関して、肯定的と否定的意義の二つの面を考慮する必要がある。こうしたスタンスの必要性は、通常の現代医療における臨床研究との大きな相違点といえよう。

 

代替医療と現代医療の接点としてのプラシーボ効果

 それでは、プラシーボを肯定的に取り扱うからといって、そうした代替医療研究は「科学的」ではないのだろうか。プラシーボはただの「気のせい」だけであって、何ら人間に証明しうる生理学的変化をもたらすものではないのだろうか。そもそも代替医療は、既知、未知を問わず、様々な機序を介して、生体の治癒機転に働きかける医療ともいえる。つまり妥当な科学的方法であっても、プラシーボであっても、生体の治癒へのメカニズムに働きかけていれば同意義であるととらえられる。想定する生体の治癒メカニズム(自律神経系・生体防御系・内分泌系等の連携)は、実態をもつものであり、これ自体は科学的説明が可能である。これらを、プラシーボ研究で著名なミシガン州立大学のハワード・ブローディ教授は自著の中で「体内の化学工場」と表現している4)。つまり、「実薬」であっても「偽薬」であっても、「体内の化学工場」は同等に治癒機転に働きかける。その結果、治癒がもたらされるのであれば、その原因は本質的に関係ないとも言える。こうした観点から、代替医療の臨床においては、プラシーボ反応はことさら、除去すべきものではない、という見方ができるわけである。これは、こと代替医療に限る問題でもない。現代医療においても、昨今、個別性を重んじた医療ないしは全人的医療といった概念の重要性が叫ばれている。また、そこに通低する思想も、科学万能的思想から、「語り」を重視する「ナラティブ」重視へと変貌している。こうした流れの中で、これまでのプラシーボに対する従来の意味づけも変化してくるのは自明である。従来の薬物療法や外科手術においても多分にプラシーボ効果は観察されている3)。つまり、両者にとって不可欠かつ、共通の接点としてプラシーボ効果は、非常に重要な役割を持つと言えよう。

 

統合医療におけるプラシーボ効果

 この考えをベースにすると、代替医療を現代医療の中に統合していこうとする「統合医療」において、プラシーボが重要な意味があることがわかるであろう。つまり、統合医療研究という場合、現段階では、代替医療の基礎研究的側面と実際の臨床的側面とでわけて考える必要がある。我々は今後、この分野においてプラシーボ効果というものを考えるにあたって、このように分けて考える必要があるだろう。また将来的には積極的なプラシーボの評価という大きな発想の転換の成否が、新たな医療、「統合医療」研究の成否ともなるだろう。

 

(参考文献)

1)A K Shapiro/赤居,滝川,藤谷訳: パワフル・プラセボ, 協同医書出版社, 2003

2)川嶋朗,山下仁: 鍼灸治療, 臨床検査47:719-724, 2003

3)J E Pizzorno, M T Murray/帯津良一監修: 自然療法, 産調出版, 2004

4)Howard Brody/伊藤はるみ訳: プラシーボの治癒力, 日本教文社, 2004

 


tougouiryo at 2006年08月28日22:23|この記事のURL

統合医療学習推薦図書の紹介

 

統合医療夏季セミナーの紹介

 

来る2006819日〜21日に統合医療夏季セミナーを、東京女子医大で主に医学生を対象に開催する予定です。現段階で募集は終了していますので、もし、これを読んで関心のある方は来年度、是非、参加してみてください。主催は日本統合医療学会ですので、そちらのHPをマメに見ていただければ詳細がわかると思います。

 

JIM会長の渥美和彦先生をはじめ、JACTの若手メンバーを中心に、漢方からサプリメント、エネルギー医学に至るまで、幅広い講演が3日にわたって行われます。私の担当は3日目の「統合医療の学習方法」。

 

幅広い統合医療の学習をどのようにするべきか。ただ、漢方、アロマ、サプリ、といった形で各論を勉強していくだけでは、十分でないのはいうまでもありません。医学生としては、むしろそうした各論よりも、しっかりとした総論を学ぶべき、と考え、医学をめぐる枠組みから、統合医療を捉える視点を特に強調してみたい、と思っています。そのために具体的な推薦図書をリストアップしてみたのですが、ここを読んで頂いている方であれば関心があるかな、と思い、その一部をご紹介します。簡単な書名しか挙げていませんが、詳しくはネットなどで探してみてください。

(どれも、あくまでも一例です。もっといい本もいくらでもあります。各人の学習の参考程度にでもなれば幸いです。)

 

 

統合医療学習法試案 (下段は参考図書名です)

 

(1)「統合医療」という枠組みの理解 ☆☆

統合医療基礎と臨床(日本統合医療学会監修)・自分を守る患者学(渥美・PHP新書)

 

(2)漢方の理解 ☆☆

絵で見る和漢診療学(医学書院)・やさしい中医学入門(東洋学術出版社)・入門漢方医学(南江堂)

 

(3)鍼灸の理解

医家のための鍼術入門講座(間中・医道の日本社)・経絡テスト(向野・医歯薬出版)

 

(4)サプリメント・健康食品・栄養の理解(生活習慣病)☆

サプリメント事典(平凡社)・サプリメントエビデンスブック(じほう)

 

(5)精神・神経・免疫学の理解(がん・難病)

こころと体の対話(神庭・文芸春秋)・未来免疫学(安保・インターメディカル)

 

(6)セルフケアの理解・実践(アロマセラピー・呼吸法・気功)☆

心身自在(ワイル・角川文庫)・アロマテラピーの科学(朝倉書店)・禁煙呼吸法(成瀬・ゴマブックス)

 

(7)エネルギー医学への理解(ホメオパシー・ヒーリングタッチ)

バイブレーショナル・メディスン(日本教文社)・エネルギー医学(エンタプライズ)

 

(8)現代医療の長所・限界点・境界線への理解と探求 ☆

人はなぜ治るのか・プラシーボの治癒力(ともに日本教文社)・医療が病をつくる(安保・岩波書店)

 

(9)現代医学とは何か(文化・社会的観点から)☆☆

医学の歴史(小川・中公新書)・医学の不確実性(中川・日本評論社)・新しい科学論(村上・講談社ブルーバックス)・物理数学の直感的方法(長沼・通商産業研究社)・伝統医学の世界(池上・エンタプライズ)

 

     ☆:統合医療を志すのであれば必須

     :学生時代に関心を持ち始めたほうがいいもの

無印:個人の趣向に合わせて(関心があればいくらでも突き詰めてかまいません)


tougouiryo at 2006年08月16日23:14|この記事のURL