2026年07月13日

久しぶりに甲野善紀先生との食事会でした

 週末は、久しぶりに武術家の甲野先生と、新宿御苑でお食事会でした。当院の関係者も併せて、6名ほどの参加で、いつものように先生から衝撃的なお話を聞きながらの充実したひと時でした。
 今回は私の現在執筆している書籍の推薦文を書いていただくことになり、そのご意見伺いも兼ねての会となりました。とくに今回の著作は、丹田に関してかなり突っ込んだ内容となったので、肥田春充の専門家でもある先生にも、ご意見を伺いたいという思いでした。

 このブログでも、かつてから丹田≒腸間膜論を展開しており、今回はずいぶんと前に書いた丹田論を見返してみたいと思います。

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 武術や伝統芸能、呼吸法の世界で、古来より極意として語り継がれてきた「臍下丹田(せいかたんでん)」。へその下三寸(約9cm)の体の深部にあるとされるこの部位は、生命エネルギー(気)が集まる中心であり、心身の安定と力の源と考えられてきました。達人たちは「丹田に気を込める」「丹田で立つ」ことで、常人にはない安定性とパワーを発揮すると言います。しかし、この丹田、解剖しても特定の臓器が見つかるわけではなく、その正体は長らく謎に包まれ、どこかスピリチュアルで非科学的な概念として扱われてきました。

 ところが、この東洋身体論の核心に、現代の解剖学、特に「ファシア」の視点から光を当てると、驚くべき可能性が浮かび上がってきます。丹田が存在するとされる下腹部の深部には、実は「腸間膜(ちょうかんまく)」という、非常に大きなファシアの塊が存在するのです。

 腸間膜は、長く伸びる小腸や大腸を、お腹の後ろの壁に固定して吊り下げている膜状の組織です。教科書では、腸を支える単なる薄い膜のように描かれがちですが、実際に腸管を取り除いてみると、その根元にはかなりの厚みと容積を持った、扇形の脂肪組織を含むファシアの塊が残ります。近年、この腸間膜は単なる付属物ではなく、一つの独立した「臓器」であるという見解も提唱されています。
 そして、その位置と形状は、まさに古の人々が「丹田」として認識したであろう身体感覚と、見事に一致するのです。もしかしたら、丹田とはエネルギーといった抽象的な概念ではなく、この腸間膜という物理的な「塊状ファシア」そのものを指していたのではないでしょうか。

 腸間膜が丹田の正体であるという仮説は、武術や呼吸法における身体操作のメカニズムを、極めて合理的に説明してくれます。腸間膜は、その上端が横隔膜の近くに付着し、そこから扇状に広がりながら、その重みで腹腔内のファシア全体を下に引き下げるような構造になっています。

 深い腹式呼吸によって横隔膜が大きく上下すると、この腸間膜も連動して動き、下腹部に安定した圧力が生まれます。これが「腹圧」であり、体幹を安定させる力の源となります。武術家が「ハッ!」と声を出す(気合を入れる)瞬間に腹圧を高めるのは、この腸間膜を起点とした全身のファシアネットワークに一気に張力をかけ、体を一つの強固なユニットとして機能させるためだと考えることもできます。

 また、腸間膜は単なる「重り」ではありません。豊富な血管や神経、リンパ管が通る、極めて活動的な組織です。AWGオリジンのような波動治療器で腹部に振動を与えると、この腸間膜が効果的に刺激され、腹腔内全体の血流やリンパの流れが促進される可能性があります。

 さらに、腸間膜には迷走神経(副交感神経)も密に分布しているため、ここに心地よい刺激を与えることは、全身を深いリラックス状態へと導き、自律神経のバランスを整える上でも非常に有効だと考えられます。

 古の達人たちは、解剖学的な知識なしに、自らの身体との対話を通じて、この腸間膜というファシアの塊が持つ力を直感的に理解し、「丹田」と名付けて活用してきたのかもしれません。それは、エネルギーやスピリチュアリティといった言葉でしか表現できなかった、極めて高度な身体知性だったのです。ファシアという視点は、この長年の謎を解き明かし、伝統的な身体知と現代科学を繋ぐ、強力な架け橋となります。

 腸間膜=丹田説は、私たちの身体観をさらに拡張する可能性を秘めています。それは、ファシアが持つ「空間(Space)」という機能と深く関わっています。

 ファシアは、組織と組織の間に存在し、それらが滑らかに動くための「滑走する空間」を提供しています。特に、横隔膜の呼吸運動によって、胸腔と腹腔という二つの大きな空間内のファシアはダイナミックに動き、その間を熱や圧力が移動します。漢方医学では、胃で発生した余分な熱(胃熱)が、この空間を通って皮膚に移動し、アトピー性皮膚炎などの炎症を引き起こすと考えます。ショウガなどを食べて体が温まるのも、このファシア空間を熱が伝わっていく現象として説明できます。

 丹田、すなわち腸間膜は、この体幹部のファシア空間の中心に位置し、その動きと状態をコントロールする司令塔のような役割を担っているのかもしれません。丹田が安定し、活性化することで、全身のファシアネットワークが励起され、気の巡り、すなわち熱や電気信号、水分の流れがスムーズになる。その結果、心身は最適なバランス状態へと導かれるのです。

 



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